2009年02月02日掲載記事より
高千穂鉄道 延岡―高千穂の19駅 (宮崎県延岡市)
もう、次の列車は来ない
亀ヶ崎駅から延岡方面を望む眺め。斉藤運転士は「この景色が一番好きでした」と話す
深角駅のホームに立つ「駅長」の山本さん。桜の季節にはここが演芸の舞台になる
稜線(りょうせん)近くを走る国道から見下ろすと、線路は深い谷底にあった。五ケ瀬川に寄り添い、あるいは交差しながら、山あいと海辺の町を結ぶレールが延びる。
長短のトンネルや百を超す橋を駆使し、急峻(きゅうしゅん)な地形を克服してきた高千穂鉄道は、2005年秋の台風禍によって命脈を絶たれた。それは、沿線の地域に交通手段の寸断という以上に暗い影を落とした。
最後まで運転士を務めた一人、斉藤拓由さん(34)は述懐する。「ある日、顔なじみの高校生が自宅の最寄り駅で降りなかった。学校で何かあったらしく『帰りたくない』と言うんです」。斉藤さんは高校生の親に許しを得て、乗務後に夜まで気晴らしに付き合った。
人里離れた川べりに張り付く亀ケ崎駅(延岡市)。唯一、駅の隣にあった家の老夫婦にとって列車は生命線だった。「そこの奥さんは始発駅に私の乗務予定を確かめ、よくホームで列車を待ち構えていました。着くと『ほら、たけのこをゆがいたけん』って」
人を、荷物を、暮らしのぬくもりを運ぶ。それが高千穂鉄道だった。
日之影町で農業を営む山本栄治さん(59)の愛称は「深角駅長」。駅周辺の農地を花畑に変え、春の観光シーズンに列車で深角駅に着く乗客全員に花束を贈った。5年前から駅で花見の宴を開く。線路が途切れた後、桜の植樹も始めた。「見に来て、喜んでくれる人たちがおるからね」
高千穂町出身で東京に住む作家高山文彦さん(50)は、高千穂駅を集客施設に再活用する運動に取り組んでいる。
もう、次の列車は来ない。それでも、駅を守り継ごうとする人たちがいる。それぞれの胸に、夢を乗せた列車を走らせ続けるために。
(連載「九州の駅」は今回で終了します)
=2009/01/30付 西日本新聞夕刊=




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