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キリシタン紀行~「世界遺産」候補の里を訪ねて

 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が、世界文化遺産の登録候補を載せた「暫定リスト」に追加掲載されることになった。県などが提案書に盛り込んだのは五市二町の教会や遺跡20カ所。弾圧・迫害の歴史や信仰の喜びを今に伝える長崎固有の文化遺産の姿を、地域ごとに紹介する。(2007/02-2007/03 西日本新聞・長崎版に連載)

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平戸市・佐世保市 「クルス」島に刻まれた歴史

■ザビエル来訪から457年 伝来の地続く祈り

 九十九島最大の島、佐世保市黒島。江戸時代、キリスト教弾圧から逃れるように生月(平戸市)や五島、外海(長崎市)などにいた信者がこの島に移り住んだという。ポルトガル語で十字架を意味する「クルス」島がなまり「黒島」になった―島の信者らの間ではそう言い伝えられている。

 1550年に県内で初めてポルトガル船が入港し、宣教師フランシスコ・ザビエルも訪れた平戸。ザビエルの布教活動から始まった長崎のキリシタンの歴史が島の名前に刻まれたかのようだ。

■「105年前と同じ」

 710人の島民の8割がカトリック信者という黒島。信者の心のよりどころとなっているのが島唯一の教会、黒島天主堂(国重要文化財)だ。港から坂道を約20分歩くと、重厚な三層構造の天主堂が見えてきた。約40万個のれんがを信者らが1つ1つ積み上げ1902年に完成したという。

 天主堂内に足を踏み入れると手作りの温かみが伝わってくる。

 祭壇の脇には、教会建築を指導したフランス人のマルマン神父手作りの説教台があり、天井から木製のシャンデリアがつり下がる。天井はニスを塗った上からはけで木目をなぞる「櫛目(くしめ)引き」で仕上げられ、毎朝、信者の祈りを見守り続けている。

 天主堂の祭壇は、床に有田焼のタイル約2000枚が敷き詰められ、東洋と西洋が融合する独特の美しさを醸し出す。マルマン神父が佐賀県有田町の窯元に出向き注文したタイルに色あせた様子はない。

 かつて3000人近かった島民は四分の一以下に減ったが、黒島地区公民館主事で信者の山内一成さん(52)は「島民の信仰と生活が教会に守られているのは105年前と同じです」と話す。

黒島天主堂

 島唯一の教会堂は学校帰りの子どもの格好の遊び場。信仰の中で子どもたちが育っていく

黒島天主堂の内部

 祭壇周辺に敷き詰められた有田焼きのタイル。ステンドグラス越しの陽光が映える

黒島天主堂の「こうもり天井」

 荘厳な幾何学模様を描く「こうもり天井」。ミサのない日は静寂に包まれる

■解禁後も見張り

 黒島の北西にある平戸島。ザビエルの訪問から間もなく、宗教や貿易をめぐるトラブルからポルトガル船の来航は途絶えたが、信仰の種は平戸にも根付いた。

 平戸市で最も古い教会が1899年に完成した宝亀町の宝亀教会(県有形文化財)。主構造は木造瓦ぶきなのに、玄関がある正面だけがれんが造り。教会堂建築の移り変わりを伝える“証人”ともいえる。

 明治政府がキリスト教の信仰を認めたのは73年。教会ができるまで、平戸島の信者らは民家を活用した民家御堂を設け祈りの場としていた。宝亀教会に近い集落の最も山あいにある黒崎家にもかつて民家御堂があり、祭壇の真ん中に十字架の御絵を飾り祈っていたという。黒崎敏雄さん(48)は「禁教が解かれた後も、必ず見張りを立てて祈りをしていた、と聞いています」。弾圧に負けず世代を超えて祈り続けた重みが伝わってくる。

宝亀教会

 茶色の外壁と純白の縁取りが鮮明なコントラストを描き出す教会堂

■黒島の信者移住

 国重要文化財の田平天主堂は、平戸瀬戸越しに平戸島を望む平戸市田平町小手田免の丘の上に立つ。

 キリスト教解禁後、黒島から三家族が移り住んだのを皮切りに外海や五島などから信者が入植。信者が1000人近くに増え1917年に教会が完成した。

 設計は「教会建築の父」鉄川与助。赤れんが造りの三層からなる教会の正面には濃緑色の八角形の鐘塔が据えられ、50棟近い与助の作品の中でも傑作に数えられる。

 古楽愛好家で5年前から天主堂でクリスマスコンサートを開いている同市田平町の百枝史朗さん(50)は「17世紀に欧州で演奏されていたリュートやリコーダーなどは、こうもり天井のおかげで丸みを帯びた残響が心地いい」。

 佐世保市吉井町出身で、商業カメラマンを辞め6年前に東京から鹿町町に戻ってきた中倉壮士朗さん(46)は古里の教会の美しさに魅せられた1人。昨年夏に小値賀町の旧野首教会を訪れたのをきっかけに、一度は封印したカメラを構え教会を巡っている。

 「教会が持つ美しさをあらためて知り、写真心をくすぐられた。ぜひ写真集を出したい」と中倉さんは言う。

 ザビエルの平戸来訪から457年。キリシタンの歴史はこれからも刻まれていく。
 (平戸支局・田中玲子)

 ※写真は中倉壮士朗さん

田平天主堂

 生涯を教会建築に捧げた鉄川与助の傑作とされる天主堂は堂々たるたたずまいを見せる

 黒島天主堂がある黒島へは佐世保市の相浦港からフェリーで約50分。下船後、徒歩約20分。
 宝亀教会は、平戸市の平戸桟橋バスターミナルから路線バスで約25分の「宝亀」で下車、徒歩約7分。
 田平天主堂へは平戸口桟橋バスターミナルから路線バスに乗り約10分の「天主堂前」下車、すぐ。佐世保市から車で約50分。