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キリシタン紀行~「世界遺産」候補の里を訪ねて

 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が、世界文化遺産の登録候補を載せた「暫定リスト」に追加掲載されることになった。県などが提案書に盛り込んだのは五市二町の教会や遺跡20カ所。弾圧・迫害の歴史や信仰の喜びを今に伝える長崎固有の文化遺産の姿を、地域ごとに紹介する。(2007/02-2007/03 西日本新聞・長崎版に連載)

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長崎市外海地区 ド・ロ神父の思い息づく

■異国にささげた半生 消えることない心の太陽

 「ド・ロさまは外海の太陽だ」。禁教下の取り締まりを逃れ、多くの潜伏キリシタンがいた長崎市外海地区のカトリック信者たちは、敬愛を込めこう口にする。

 フランス人宣教師のマルコ・マリ・ド・ロ神父。禁教が解かれて間がない1879(明治12)年に39歳で外海に赴任し、74歳で亡くなるまで、異国の農漁民を救おうと幅広い活動を続けた。角力(すもう)灘を臨み、遠藤周作の「沈黙」の舞台にもなった里は、今も神父に見守られていた。

■引き継がれる心

 「さあ、歌いましょう」

 外海地区・西出津(にししつ)町の高台にある「ド・ロ神父記念館」に、シスターの橋口ハセさん(89)が弾くオルガンの音が響いた。足踏み式のオルガンは神父がフランスから取り寄せたもので、虫食いなどで傷んだ部品を修繕し2002年に復活した。「ヴォー、ヴォー」と独特の音色を奏でる。

 記念館は夫を亡くした女性らの生活のために神父が建てたいわし網工場の建物で、橋口さんの母もここで神父らと過ごした。橋口さんは週3、4日、記念館の窓口に座り、入場者を案内する合間にオルガンで聖歌を演奏する。「神父はつらい仕事の合間に即興で歌を作り、信者を励ましていたそうです。だから、今度は私がみんなに歌を贈る番」とほほ笑む。

 旧いわし網工場は旧授産場、旧マカロニ工場とともに「旧出津救助院」として国の重要文化財に指定された。旧製粉工場と旧薬局の建物と倉庫3棟を加えた一帯約1600平方メートルが県史跡「ド・ロ神父遺跡」になっている。

ド・ロ神父記念館

 ド・ロ神父が愛用したオルガンを弾くシスターの橋口ハセさん。壁には神父の肖像が掛けてある

■老朽化で損傷も

 外海地区は緑が濃い山並みがそのまま角力灘に飛び込む険しい地形。農耕地が少なく貧しかった人々のためにド・ロ神父は私財を投じて授産施設を造り、そうめんやパン作り、洋服の仕立て方など、さまざまな技術を身に付けさせた。

 農耕具の使い方を示す絵図、算数を教えるのに使ったそろばん、薬を量る天秤、糸車、建築道具-。布教活動に直接結び付かない遺品が記念館に並ぶ。近くに住む日宇スギノさん(59)は子どものころ「ド・ロさまごっこ」で遊んだ。ド・ロさまは教えを説く神父ではなく、万病を治す医者の役だったという。

 世界文化遺産を目指し県などが作成した提案書の文化財のうち、教会以外の建物は旧救助院など2カ所だけ。貴重な文化財だが、老朽化で悲鳴を上げていた。特に2階建ての旧授産場の傷みが激しい。雨漏りがひどく、2階は床が抜ける危険性があるため立ち入り禁止。昨年の台風で屋根瓦約450枚が飛ばされ、板を打ち付け応急処置をしてある。

旧出津救助院

 子どもに語りかけるド・ロ神父の像と、老朽化が目立つ旧出津救助院の旧授産場(中央奥)

■強風に耐える姿

 まだ真っ暗な午前5時半、出津の集落のほぼ中央に立つ「出津教会」(県有形文化財)に明かりがともり、信者たちが集まり始めた。午前6時からの早朝ミサでは約30人の信者が祈りをささげた。

 海からの強風に構える低い屋根と、前後に2つの鐘塔を持つ構造が特徴。ド・ロ神父の設計・建築指導で信者がれんがを積み1882年に完成した。窓にステンドグラスはない。飾り気のない造りとどっしりした構えは、厳しい弾圧を耐え信仰を守り続けた外海の人々の強い意志を映し出しているように見える。

 北に約5キロ離れた「大野教会」(県有形文化財)は、県内に2棟しかない石積みの教会。地元の自然石を積み上げたド・ロ壁と呼ばれる珍しい構造を使い建てられた。過疎化が進み、かつて26世帯あった信者は現在五世帯。大野教会でのミサは年に一度になった。

 出津教会の周辺には、神父が手掛けた井戸や馬小屋跡などが点在する。裕福な家庭に生まれながら、28歳で日本に渡ったまま、一度も母国に戻らなかった神父は半生をささげたこの地に眠っている。

 早朝ミサの後、信者の浜口優さん(74)は「私たちの心の中からド・ロさまが消えることはない。素晴らしい功績を子や孫に伝えていくことが私たちの責務だと思っています」。キリシタンの里を朝日が照らし始めた。
 (長崎総局・清水恵美子)

出津教会と鐘桜

 斜面の中腹にあり、強い風に負けないがっしりした姿が印象に残る

出津教会の内部

 薄明かりの中で信者たちが祈りをささげる早朝ミサ

大野教会

 自然石を積み上げた石積みの教会。普段は無人で、マリア像が静かに見守っていた

 長崎市西出津町のド・ロ神父遺跡と出津教会へは、同市中心部から車で約50分。佐世保市からは約80分。最寄りのバス停は「出津文化村」。
 長崎市下大野町の大野教会は「大野」バス停下車、徒歩約10分。
 ド・ロ神父記念館や近くにある「遠藤周作記念館」などを巡る定期観光バスを、長崎バス観光が3月から11月の土日祝日に長崎駅前から運行する。