
「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が、世界文化遺産の登録候補を載せた「暫定リスト」に追加掲載されることになった。県などが提案書に盛り込んだのは五市二町の教会や遺跡20カ所。弾圧・迫害の歴史や信仰の喜びを今に伝える長崎固有の文化遺産の姿を、地域ごとに紹介する。(2007/02-2007/03 西日本新聞・長崎版に連載)
■弾圧と貧困乗り越え 豊かな景観に受難の跡
「その民を五島に移住せしめられたし」―。
「キリシタンの里」と称せられる五島列島。江戸幕府による禁教下で途絶えた五島のカトリックが息を吹き返したのは、五島藩主が大村藩主に開墾農民の移住を頼んだのがきっかけだ。1797年以降、長崎市外海地区から移り住んだ三千余人は弾圧の中で信仰を守り続けていた潜伏キリシタン。希望の地で待っていたのはやはり弾圧と貧困だった。島々の教会を巡ると、信者が守り継いだ堅固な信心と、受難の歴史を忘れまいとする決意が伝わってくる。
■「来てみて地獄」
福江島の北東端で、16世紀後半に外国人宣教師が布教の拠点とした地に立つ五島市奥浦町の堂崎教会(県有形文化財)。教会の「キリシタン資料館」には、弾圧下で信者たちを支えたマリア観音などの遺品や、「信教の自由復活」の象徴として1908年に同教会を建設したペルー神父の肖像が並ぶ。
「五島へ五島へと皆行きたがる 五島は優しや土地までも」と新天地へのあこがれを歌にした外海の信者たちは、移住後は「五島は極楽 来てみて地獄」と歌うようになったという。人里から離れた、土地がやせた山間部や狭い浜辺にしか住めなかった。
世界文化遺産の国内候補選考で「独特の自然景観とも一体の優秀な文化的景観」と高く評価された、自然環境に溶け込んだ教会の姿は、迫害を避け潜伏を続けた信者たちの実態の裏返しだ。
堂崎教会信者の入口仁兵さん(70)は、亡くなった父が「ペルー神父とじいちゃんがれんがを1つ1つ重ねて教会を造りよっとを、子どものころ見たぞ」と誇らしげに話していたのを覚えている。
堂崎教会
ペルー神父の指導で建てられた。れんが造りの教会堂で、巡回教会となった現在は月1回、ミサが行われている
ペルー神父の肖像
堂崎教会に掲げられた肖像。後ろのステンドグラスから柔らかな光が差し込んでいた
■解体の危機免れ
福江港からフェリーで約30分。久賀島で降り、車1台がやっとの山道を約30分走り、山道を約1キロ歩いた先の集落に旧五輪教会堂(五島市蕨町)はひっそり立っていた。瓦屋根など外観は和風だが、建物の中に一歩踏み入れるとそこにはゴシック様式の祈りの場が広がる。
1881年に島内の別の場所に建てられた教会を1931年に移築した。五島市で最古の教会。文化財としての価値は見落とされ、老朽化による建て替えのため取り壊し寸前だった建物に光を当てたのは地元公民館主事の坂谷伸子さん(58)だ。
84年に受講した公民館講座で、講師が「後世に残すべき物」に五輪教会を挙げた。仏教徒で「ただの朽ち果てた教会」と思っていた坂谷さんが帰宅すると、当時市議だった夫から「五輪教会が来週、解体だって」と聞かされた。坂谷さんは文化的価値を訴え市や県に直談判。間もなく県の調査団が島を訪れ、2カ月後に県が文化財に指定。2003年には国の重要文化財となった。
便利な土地を求めて土地を離れる人が多く、かつて50世帯を数えた信者も現在は教会そばで漁業を営む四世帯9人だけ。観光客が訪れるたびに信者が教会の扉を開けている。
旧五輪教会堂内部
日本家屋風の外観と異なり、「こうもり天井」の下に教会らしい空間が広がる
新旧の五輪教会堂
浜辺に建てられた旧五輪教会堂(左)。県の文化財指定を受け、信者は新しい五輪教会(右)を建てた
■自分の家と同じ
童話の中に出てきそうなクリーム色の壁と水色の窓枠が愛らしい江上教会(同市奈留町)も信者や地元の熱意で残った。
01年に外壁の腐食や瓦屋根の損壊が見つかったが、三世帯4人に減り高齢化した信者の力だけでは修復は不可能。そこで奈留島の拠点教会である奈留教会の信者らがバザーなどで約250万円を集め、ボランティア約50人が2カ月かけて修復した。
県の文化財指定を受けたのは翌02年だった。奈留教会の信者代表、葛島幸則さん(53)は言う。「たとえ信者1人になっても、祈りたいというばあちゃんたちに、遠くの教会へ通え、とは言えない。教会は自分の家と同じですから」
400年間、引き継がれた信仰が「キリシタンの里」の教会群を包んでいた。
(長崎総局・下崎千加)
江上教会
信者らが手弁当で修復した。簡素ですっきりした構造が特徴で、最も完成度が高い木造教会とされる
旧五輪教会堂がある久賀島へは五島市の福江港からフェリーで約30分、奥浦港からは約20分。下船後、車と徒歩で約40分。貸し切りの海上タクシーを使えば教会堂前に横付けできる。
堂崎教会へは五島市中心部から車で約20分。
江上教会がある奈留島へは、福江港や新上五島町からフェリーが運航中。下船後、車で約15分。

























