2011年06月13日更新

玉龍雪山3250㍍地点に広がる雲杉坪。あいにく山頂は見えなかったが、高原らしい澄んだ空気に癒やされた

麗江市博物館で、トンバ教の59代目司祭とされる和世先さんがトンバ紙に象形文字の「トンバ文字」を書いてくれた

(1)酒を飲むの意【トンバ文字】

(2)怖がるの意 【トンバ文字】
中国の雲南省に暮らす少数民族は20を超す。漢族が増えたとはいえ、麗江は約22万人のナシ族を中心にペー族、チベット族と、今も人口の6割を少数民族が占める。彼らが「聖地」として崇拝するのが、チベット山脈の東端に位置する名峰、玉龍雪山(5596メートル)。北半球で最南の氷河がある人類未到の地だ。
麗江の北約15キロ。玉龍雪山の名は、南北に13ある大きな峰々が竜に見えることからついた。英雄の化身、そんな言い伝えもある。
ビジターセンターがある甘海子や、草原からの景色が雄大な雲杉坪、さらに氷河がある標高4600メートル地点の氷川公園などへ、国内外から多くの観光客が訪れている。
訪れた日は、あいにくの天候で氷川公園行きを断念。甘海子からバスに乗り、さらにロープウエーで標高3250メートルへ。放牧された牛を横目に杉木立の遊歩道を抜けて雲杉坪を訪ねると、雲間から氷河を見上げることができた。ここでは観光客向けに少数民族の貸衣装が人気。「まるでスターになった気分」。安徽省から来た女性はナシ族の衣装にイ族の帽子というちぐはぐな格好で、他の観光客の写真撮影の注文に応じていた。
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ナシ族は、この山を「玉龍第三国」とも呼ぶ。かつて恋愛結婚が許されなかったころ、多くのナシ族の若者が心中を図った地。天国でも地獄でもない「第三国」で安らかに眠ってほしい、そんな願いが込められた。
現代は違う。「ナシ族でない男と結婚したければ、それで良い。娘の幸せが一番だ」。2人の大学生の娘をもつ和向東さん(52)は、男親として柔軟的な考え方を披露した。
ナシ族が信仰する多神教・トンバ教は、世界に知られる。トンバの文字は、昔の象形文字が今も使われ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産でもある。文字数は約1400。日本の常用漢字1945文字よりやや少ないが、物の名前から心の動きまで表現する。
例えば、図1。これは酒を飲む意味。図2は怖がる意味。何となく解読できる。麗江の古城にある宿屋の玄関には「玉龍雪山でシカの声が聞こえる」とトンバ文字で書かれていたが、これはさすがに解読できなかった。
麗江市博物館は、トンバ教の伝統的祭儀やトンバ文字、チンチョウゲを材料にしたトンバ紙などを展示する。奥で「59代目のトンバ先生」と呼ばれる司祭の和世先さん(75)が写経していた。恐る恐る「文化伝承は大変ですね」と話したら、「文字と儀式を伝えることが最も大切」と記者の名前をトンバ文字で書いてくれた。
玉龍雪山も開発が進む。一部の反対を押しきり、標高が世界で最も高いというゴルフ場ができていた。ナシ族でもトンバ文字を理解できる人は少なくなっているそうだ。少数民族の伝統をしっかり守ってほしい。そんな思いを強め、麗江を後にした。

