2009年04月28日更新
野崎島の旧野首教会でのコンサート。ステンドグラス越しの日差しが注ぐ会場に澄んだ音色が響いた

漁師の宇戸正和さん(左)に指導を受けてさばいたカワハギは絶品の刺し身になった
「漁師はおもしろか」。記者の仕事をしていて出会った海の男たちは、大概そう言う。もちろん、その仕事は過酷で危険も伴う。職場や上司の愚痴をさかなに飲むのが趣味になっている勤め人としては、何だかうらやましく思っていた。
長崎県佐世保市から西へ約70キロ、東シナ海に浮かぶ小値賀本島(同県小値賀町)。地元は漁業や農業の体験型観光に力を入れているという。宿泊客を受け入れている漁師の宇戸正一郎さん(65)宅に民泊した。
民泊の目玉は漁師体験。妻の靖代さん(64)に「夕飯のおかず、ちゃんと釣ってきてよ」と送り出された。とはいえ、こちらは素人。息子の正和さん(29)に案内された漁港で、とにかく釣り糸を垂らしてみる。
待つこと30分。当たりはない。「潮が悪か」と正和さん。無口な海の男は、それっきり黙り込んでしまう。寄せる波の音。居心地の悪い沈黙。その時…。
さおの先がしなる。夢中でリールを巻き上げると、体長10センチほどのアジが掛かっている。魚たちも素人を歓迎してくれたのか。その後もアジ、カワハギ…。思わずほおが緩む。
宇戸家に戻ると、正一郎さんが前日釣り上げた大物のヒラメをさばいていた。こちらも包丁を借りてお手伝い。釣果のカワハギを3枚におろして刺し身に、小アジは空揚げにした。
3世代5人の家族と晩の食卓を囲み、新鮮な海の幸を堪能した。正一郎さんと正和さんの父子は、焼酎の酔いに顔を染めると冗舌になってゆく。すっかり家族とうち解け、にぎやかな宴の夜は更けていった。
翌朝、小値賀本島から町営船で野崎島へ。切り立った斜面では、野生のシカが遊んでいる。今や無人の島は、1970年代まで隠れキリシタンの子孫が暮らし、小中学校もあったという。
廃校となった校舎は改修され、宿泊施設になっている。「野崎島ワイルドパーク自然学塾村」。キャンプやシカの観察、釣りが楽しめる。
ガイドの男性の案内で、小高い丘に立つれんが造りの建物を目指した。1908年に建てられた旧野首(のくび)教会だ。教会ではこの日、オカリナとギターの演奏会が開かれていた。澄んだ音色が薄暗い教会に響く。ステンドグラス越しの柔らかい日差しも心地いい。
終了後、自然学塾村管理人の前田博嗣さん(47)手作りの昼食をいただいた。釣りたてのイサキの刺し身をしょうゆ、みりんなどでヅケにしたお茶漬けが絶品。漁師の父親仕込みのご当地料理だとか。ますます海の男がうらやましくなった。
(報道センター・池田郷)
●ちょっと より道=五島うどん作りに挑戦
うどん作り体験でのばしためんを乾燥させる作業をする女性
小値賀本島からフェリーで南へ約一時間の新上五島町。有川港から歩いて1分の「五島うどんの里」では、手延べうどん作りが体験できる。
日本三大うどんにも数えられる五島うどん。生地をのばす過程で用いるつばき油の風味と、つるっとしたのど越しの細めんが特徴だ。アゴ(トビウオ)のだしの利いたつけ汁で食べる。
五島うどんの里では、生地を引きのばす「小引き」や、めんを乾燥させる「はたかけ」と呼ばれる作業などを体験することができる。
うどん作りの体験は試食付きで1500円(1週間前までに予約を)。電話=0959(42)2655。
※記事と写真説明で「宇土正一郎さん」「宇土家」「宇土正和さん」とあるのは、いずれも「宇戸」さんの誤りでした。おわびして訂正します。


小値賀町を観光するなら、地元の特定非営利活動法人(NPO法人)「おぢかアイランドツーリズム協会」に相談すると安心だ。野崎島でのガイド付きウオーキング(2100円)などの自然体験、小値賀本島での民泊(1泊2食6300円)、漁業体験(2100円)などは原則2週間前までに予約を。同協会=0959(56)2646。