2003年04月30日更新
小浜温泉街と橘湾が赤く染まる
薫風が旅心をくすぐる季節。福岡―小浜の直行バスに飛び乗った。行き先は長崎県・小浜温泉。同県諫早市から国道57号を下り愛野の峠を越えると、橘湾の眺望が広がり、その奥に幾筋もの湯煙が立ち上っていた。
小浜町は、海辺に旅館が軒を連ねる珍しい温泉街だ。このロケーションが、「湯船から落日を拝む」というぜいたくな空間を生む。車中、期待が膨らんだ。
まずは、有明海の玄関、早崎海峡に約四百頭のバンドウイルカが生息していると聞き、島原半島の南端、口之津港(同県口之津町)へ。観光船で十分ほど走ると、陽光を浴び銀色に輝くイルカの群れを発見。上下に揺れるへさきに立ち、カメラのシャッターを押し続けた。案の定、船酔いに。温かい湯が恋しくなる。
選んだ宿は、小浜温泉街にある老舗旅館「伊勢屋旅館」。「気取らない“普段着”の温泉です」と、草野有美子女将(47)が出迎えてくれた。
夕暮れどきを見計らって露天風呂へ。小浜の湯は、無色透明で全国で最も温度が高いという。体が芯(しん)から温まったころ、青い空が焼け始めた。次第に、燃えるような赤が湯の街を包み込んだ。眼前の大パノラマに、思わずうなった。
日没後、窓から漆黒の海を見ながら食をとる。源泉を使った魚や野菜の蒸し物や車エビの躍り食いに舌鼓を打ち、一日のしめくくりに地酒「島原美人」を選んだ。
二日目は、小浜町雲仙の「雲仙スパハウス・ビードロ美術館」へ。薄暗い空間に、ライトアップされた十九世紀のベネチアングラスやステンドグラスが浮かび上がる。神聖な心持ちになった。併設の温泉施設では、砂ぶろや樹齢二千年の屋久杉風呂が、旅の疲れを癒やしてくれた。
帰路。暮れかけた小浜の空を仰ぎながら、歌人斎藤茂吉がこの地で詠んだ歌を思い出した。
「ここに来て落日(いりひ)を見るを常とせり海の落日も忘れざるべし」
(川野恵理)

福岡市から長崎県小浜町まで、高速バスで約3時間。イルカウオッチングは大人2500円、子ども1500円。問い合わせは口之津観光船企業組合=0957(86)4433。雲仙スパハウス・ビードロ美術館は、美術館と温泉の共通券が大人1100円、中高生900円。問い合わせは同館=0957(73)3131。