西日本新聞

温泉知新 / 西日本新聞・九州の旅

誰でも知っている有名温泉から秘湯まで、九州の温泉地からわき出る「へ~」な話を掘り歩く。

薬王寺温泉

福岡県古賀市

薬師如来ゆかりの湯は… 都会に近い癒やしの場 霊場めぐりの交流支える

 JR博多駅から電車で約20分。都心に近いながらも、西は玄界灘に面し、雄大な山々を背にする、豊かな自然に恵まれた福岡県古賀市。福岡市のベッドタウンとして知られるその街に、病気を治す仏様として知られる薬師如来のお告げで発見された温泉、薬王寺温泉があると聞いた。仕事の合間に、疲れを癒やそうと足を延ばしてみた。 (経済部・岡部由佳里)

[写真説明]薬王寺温泉発祥の地には、冷泉の場を告げたとされる薬師如来が祭られている

 月曜日の午前中。雪を抱いた山々から、真っ白なもやが立ち込める中に、こぢんまりとした薬王寺温泉が浮かび上がってきた。旅館が3軒と、日帰り入浴施設1軒があるだけだ。快生館という名の旅館の脇に、薬師如来を祭る小さなお堂がぽつんとあった。「ここの温泉の由来を知っている人が、お参りしていかれますよ」と、快生館4代目ご主人の大櫛正明さん(44)。お堂の前に、封鎖された井戸。一帯で冷泉が初めて沸いた場所なのだという。

 快生館は1925(大正14)年、薬王寺温泉で最初にできた旅館だ。その湯に、体を沈めた。色もにおいもないが、ご主人が「旅館の誇り」という良質な湯が優しく体を包む。湯からあがってからも、しばらくぽかぽかとしていた。

 冷泉は1918(大正7)年、福岡県嘉穂郡出身の古書神学の研究家、清水大晃が発見した。信心深かった清水は、古書にある「筑紫の不老不死の薬泉(やくせん)を以(もっ)て難病業者に実験し効験顕著なりき」との記述を探究するうち、薬師如来のお告げにより冷泉を見つけたとされる。お堂は、清水の話にあやかり、作られた。

 「春と秋の年2回、1000人参りの人たちがお参りに来ますよ」と大櫛さん。1000人参りとは、1880(明治13)年に始まった行事で、古賀市や新宮町一帯の寺や神社などの霊場を数日かけて歩いて回る。薬王寺にお堂ができると、その経路に加えられた。かつては、近くの公民館に宿泊していた参拝客が、湯を借りに来ることもあったといい、往時を知る3代目ご主人の博太さん(78)は「みんな喜んでましたよ」と懐かしむ。

 参拝客は、いつしか日帰りで数日に分けて回るようになり、旅館が湯を貸すこともなくなった。それでも今も、休憩所としてお茶やお菓子を提供するなど、参拝客との交流を大事にしている。快生館では日帰り客が利用できる家族風呂を作った。ほかに漢方入りの日帰り入浴施設も人気だ。

 仕事の疲れや悩みが吹き飛んだ気がするのは、病を癒やす薬師如来の恩恵だろうか。また来よう。仕事に戻ってもがんばれそうだ。

 (連載「温泉知新」は今回で終了します)

=2009/01/30付 西日本新聞朝刊=



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