西日本新聞

温泉知新 / 西日本新聞・九州の旅

誰でも知っている有名温泉から秘湯まで、九州の温泉地からわき出る「へ~」な話を掘り歩く。

日之影温泉駅

宮崎県日之影町

廃線後も元気に営業 「鉄道愛」でぽっかぽか 列車を宿泊施設に再利用へ

 昨年末に全線廃線となった宮崎県北部のローカル鉄道・高千穂線。沿線の日之影町に、旅人の疲れを癒やし続けた「日之影温泉駅」がある。2005年秋の台風で大きな被害を受け、山あいに響いていた列車の音は途絶えてしまったが、温泉駅を訪ねると、山里の暮らしを支えた鉄路への愛着と誇りが、心を温かくしてくれた。 (延岡支局・田中良治)

[写真説明]五ケ瀬川と駅ホームを見下ろす日之影温泉駅の露天風呂。今にも列車がやってきそうだ

 清流の五ケ瀬川の風景を楽しみながら、川と並行して走る旧国道218号を上流へと進む。渓谷の底にあるような日之影町の中心部に目指す駅はあった。

 道路に面した玄関から建物の中へ。1階は特産品などが並ぶ物販スペースで、2階に温泉がある。泉質はアルカリ性単純泉。内湯でじっくりと体を温め、露天風呂があるバルコニーに出ると、意外な光景に心が躍った。眼下に鉄道のホームがたたずみ、今にも列車がやってきそうなのだ。

 「昔は、列車到着の5分くらい前に館内放送があってね。お客が乗り降りするのをよく見ていた」。露天風呂に入っていた地元の男性が笑顔で教えてくれた。

 日之影駅が「温泉駅」として改装されたのは1995年。温泉の併設はアイデア町長といわれた梅戸勝恵さん(2006年9月死去)の発案だった。

 赤字ローカル線だった高千穂線は、旧国鉄時代の1980年代半ばにも廃止対象になった。当時、宮崎県は「バス路線への転換」を検討していたが、梅戸元町長など地元関係者が鉄道の存続を強く訴えたという。

 元助役の甲斐重成さん(75)は振り返る。「『やるだけのことをやらんであきらめるのはおかしい』というのが町長の考え。知事に直談判に行った町長が、机をけり上げて(知事室から)出てきたこともあった」

 高千穂線は、県や沿線自治体などが出資する第3セクターに引き継がれた。地域の足を守るため、やれるだけのことをやる-。温泉駅はこうした地元の熱意によって生まれたのだった。

 台風で温泉駅構内も線路の一部が流失した。その跡には雑草が茂っているが、昨年末、第3セクターから資産の譲渡を受けた日之影町は、温泉駅周辺の再整備に乗り出す。計画によると、列車2両を宿泊施設に改造して駅構内に置き、新たに足湯などを設ける。沿線1市2町の中で、鉄道資産の有効活用策を打ち出しているのは同町だけだ。

 温泉駅を運営する村おこし総合産業の真田幸弘店長は胸を張る。「この町には鉄道の拠点だった、という誇りがある。鉄道への愛着は梅戸町長の時代と変わらない」

=2009/01/23付 西日本新聞朝刊=



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