吹上温泉
鹿児島県日置市
西郷どんが愛した湯は…多様なおもてなし競う 特攻隊員を癒した歴史も
鹿児島県を訪れる観光客の多くのお目当てである温泉。霧島、指宿といった有名温泉だけでなく、小さいながらも良質な湯で魅力を放つ温泉も多い。その1つが薩摩半島の西岸にある日本3大砂丘の1つ、吹上浜のほど近くにある吹上温泉。鹿児島市内から車で約1時間。西郷隆盛も愛したという同温泉へ足を延ばした。 (経済部・坂本公司)

[写真説明]「みどり荘」の室内大浴場からは外の池が見渡せる
同県日置市吹上町の湯之浦地区。サツマイモ畑などの田園風景が広がり、4、5キロ西には砂浜があるとは思えないこの地域に、旅館と日帰り温泉施設が計6軒点在する。
この温泉街は、明治維新後に中央での政争に敗れて下野し、故郷に戻った西郷隆盛が、趣味の狩りをするときによく訪れた場所としても知られる。
吹上温泉旅館組合長で旅館「みどり荘」を営む池田日道さん(41)は「西郷さんは県内各地の温泉を巡っていましたが、ここは特にお気に入りの1つだったようです」と話す。
アルカリ性の単純硫黄泉で柔らかい肌触りがあり、泉温約43度の適温のため、加温や加水をしないかけ流しが可能だという。
昭和30年代までは湯治の隆盛に乗って、温泉街には15軒の施設があった。しかし、時とともに減少。池田組合長は現在残っている施設について「ほそぼそとしながらも昔から続けてきて、それぞれ個性的なおもてなしをします」。
スポーツ施設を利用し、合宿の受け入れが可能な大きな宿や、1日数名しか受け入れず、離れの部屋で落ち着いた時間を過ごせる宿など、さまざまなタイプがあり、多様な客のニーズに対応できる。旅館の温泉に入浴するだけでも可能だ。
この温泉の歴史には、戦争の影も残る。太平洋戦争末期、知覧や万世の飛行場から特攻に出撃する前の若者がよく訪れたという。
万世飛行場が吹上浜近くに建設されたのは終戦の4カ月前。吹上浜が米軍の本土上陸地点と想定され、本土決戦を前に敵の兵力を少しでも削ろうと、次々と若者が飛び立った。
池田さんは「こちらに泊まる方は、知覧に行く予定がある方が多い。その方に、万世という飛行場もあるんですよと伝えるようにしている」と話す。
池田さんの母、ツヤさん(82)は特攻隊員の霊を慰めようと、「みどり荘」の敷地内に観音堂を設けた。それは、紅葉した木々の中で、「つわもの」と書かれた石碑とともに、戦火で消えていった若者たちの存在を静かに伝え続ける。
=2008/11/14付 西日本新聞朝刊=





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