西日本新聞

温泉知新 / 西日本新聞・九州の旅

誰でも知っている有名温泉から秘湯まで、九州の温泉地からわき出る「へ~」な話を掘り歩く。

大勢温泉

大分県中津市

奥耶馬渓にひっそりと…住民手作りの五右衛門風呂 田舎らしさで活性化目指す

 温泉の源泉数、湧出(ゆうしゅつ)量ともに全国一を誇る大分県。別府や湯布院といった温泉地が有名だが、県の北端に位置する中津市にもユニークな湯がある。住民が手弁当で整備した五右衛門風呂が楽しめる同市山国町の大勢温泉。奥耶馬渓とも呼ばれる自然豊かな山里に足を運んでみた。 (中津支局・中原興平)

 耶馬渓の奇岩や清流を横目に、中津市中心部から国道212号を車で走ること1時間弱。温泉がある大勢地区に着いた。ところが、看板や案内板は何一つない。住民に場所を尋ねて川のほとりにある小さな小屋にたどり着いた。

[写真説明]五右衛門風呂が楽しめる大勢温泉は名前と異なり、少人数で楽しむ温泉だ

 直径、深さ約1メートルの五右衛門風呂が二基、コンクリート製の浴槽が一基。「道は分かりましたか」。普段は無人だが、整備した町おこしグループ「貴船会」の井上英美会長(60)が待っていてくれた。名前とは逆に「大勢」では入れないので、案内板などは出していないのだという。

 温泉はアルカリ性の単純泉で、約30度。入浴は無料だ。蛇口をひねって風呂釜に湯をためた後、たき口に薪と割りばしを放り込む。杉の葉に火を付けると、勢いよく燃え始めた。

 井上会長らによると、地区には、1975年に廃止された鉄道「耶馬渓線」の駅があった。開業当初の名は「耶馬渓温泉停留所」。風呂場は湯治客でにぎわったが、50年の洪水で建物が流されたのだという。

 源泉はその後、市の所有となり、住民が洗濯に使ったり、子どもの遊び場となったりしていた。貴船会が「多くの人に利用してもらおう」と整備したのが92年のこと。大工のメンバーを中心に小屋と浴槽を建設し、5年後には町内の民家から譲り受けた五右衛門風呂も設置した。薪などは同会が用意し、清掃は地元の住民が行っている。

 程よく温まってきた風呂に入り、板の上に座り込む。釜の内側が熱くなってきたら、源泉で薄める。「少し前まではどこの家も五右衛門風呂だったのに、あっという間になくなってしまった。変わったよ」。隣の風呂釜で井上会長が笑った。

 山国町では、約50年で人口が約6割減り、3000人余りに。かつてのにぎわいは消えたが、「田舎らしさをアピールし、地域の活性化につなげよう」と、かかし約100体や、わらこずみなどを展示する住民の動きが本格化している。

 風呂で少しのぼせて川辺を見ると、会が植えたという紫や黄色のアヤメが目に飛び込んできた。山と川が織りなす風景。押し付けがましくない自然な地元のもてなしが、山国町の“田舎らしさ”と思った。

=2008/05/16付 西日本新聞朝刊=



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