女流王位戦 10月2日福岡県飯塚市で開幕
清水10連覇目指す 石橋 新戦法あれば勝機
【展望対談】勝浦修九段と野月浩貴七段

 女流将棋界の第1人者、清水市代女流王位・女流王将(38)に石橋幸緒女流四段(26)が挑戦する第18期女流王位戦5番勝負が10月2日、福岡県飯塚市で開幕し、全国を転戦する。十連覇(通算14期)を目指す清水女流王位に対し、石橋女流四段は二期連続(通算四期)の挑戦。師弟戦として女流棋界でも屈指のカードだが、今回は独立した日本女子プロ将棋協会が日本将棋連盟女流棋士会の独占するタイトルに挑むという新たな興味も生じた。戦いに先立ち、同じく師弟の勝浦修九段(61)と野月浩貴七段(34)に両対局者の心情、勝負の行方を語ってもらった。

−−9月5日の対局で石橋幸緒女流四段が矢内理絵子女流名人を下して挑戦権を獲得しました。

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第18期女流王位戦について語る勝浦修九段(左)と野月浩貴七段
 野月 その将棋は結果的に大差となりました。石橋四段は好調ですね。

 勝浦 連続二期、通算4回目の女流王位挑戦は見事。私も以前、負かされたことがある。まだ粗削りだが、終盤が強いという印象だった。

 野月 今期は森けい二・九段にも勝っています。

 勝浦 清水市代女流王位とはまた師弟対決となったが、何回も経験しているので、もう2人は慣れたでしょう。

 野月 私も勝浦師匠との最初の対局はやりにくかったのですが(笑い)。清水、石橋両者はわれわれの師弟関係より年齢が近いから、お互いに燃えるものがあるようです。師弟対決に加え、日本将棋連盟女流棋士会の清水女流王位と新団体の日本女子プロ将棋協会の石橋四段の二団体初の対決ということで、今回は例年以上に注目され、盛り上がっています。

 勝浦 石橋四段は新団体を代表して挑むという気持ちが強いはず。女子プロ協会側もタイトルをこちらにと、石橋四段への期待が大きいだろう。しかし団体は2つに分かれても、女流棋界をともに盛り上げていこうという気持ちは同じ。

 野月 清水女流王位は女流棋界の第1人者として、まさにそういう思いでいるでしょう。

 勝浦 互いによい意味で切磋琢磨(せっさたくま)してほしい。

−−両者の棋風は?

 勝浦 清水女流王位は正統派、石橋四段は元気いっぱい、イケイケの将棋です。

 野月 清水女流王位は圧倒的に安定感があり、貫録も十分。棋風も変わってきたように思います。以前は先手なら相掛かり、後手なら右四間飛車と戦法が限られていました。最近は何でも指します。

 勝浦 女流棋士にふさわしい言葉かどうかわからないが、まさに横綱相撲だ。

 野月 普段からすごい努力をしています。男性棋士の研究会にもよく参加していますし、詰将棋もいつも手放しません。一方で将棋を離れると優しい方です。対局姿はいつもピンと背筋を伸ばして実に美しい。

 勝浦 存在そのものが将棋界の宝物だと思う。将棋も居飛車正攻法で言うことなし。

 野月 石橋四段は最近飛車を振ることが多いですが、新団体ができたように将棋も何か変える必要があるように思います。序盤から激しい将棋ですが、かえって清水女流王位が得意としています。

−−5番勝負の展開を予想すると?

 勝浦 石橋四段は新団体を背負うという思いが強すぎると、清水女流王位が待ち構えるところとなる。これまでの対戦成績通りになってしまうでしょう。

 野月 気負わずに我慢強く行きたい。また清水女流王位が相手であれば、得意のごきげん中飛車以外に何か新しい戦法が必要です。

 勝浦 女流王位戦は女流棋戦では最も長い4時間の持ち時間で戦うが、清水女流王位には合っている。

 野月 集中力があり、時間の使い方がうまい。タイトル戦の戦い方に慣れています。4時間は、考えたい棋士にとってはうれしい。早く指したい棋士にとっては地獄の長さです。

 勝浦 持ち時間の配分が大切。石橋四段はただやみくもに自分の好きな戦法を出すだけではダメ。平常心で指せるかどうかが勝負です。うまくいったりすると喜びすぎる傾向があるようにも思う。

 野月 清水女流王位の相掛かりの破壊力は男性棋士と遜色(そんしょく)がありません。石橋四段はその相掛かりをあえて採用するような心の余裕が欲しいです。

−−勝敗予想は?

 勝浦 石橋四段がまだ私のイメージ通りなら、三勝一敗で清水女流王位の勝ち。欠点を理解し、新しい対策を出してくると逆転もありうる。

 野月 順当なら実績のある清水女流王位。石橋四段が勝つとすれば、勢いで三連勝という形の時だと思います。前半戦で今までと違う戦い方を見せ、勢いを出して、清水女流王位が動揺することがあればタイトル奪取も十分に考えられるでしょう。

 勝浦 序盤をしっかり指し、先制パンチを入れることが必要だ。

 野月 女流棋戦には特有の華やかさがあります。盤上のギラギラした勝負も楽しいですが、いまはインターネットもあり、勝負どころの表情、しぐさにも注目したいです。清水女流王位は美しさを通り越して、とにかくカッコいい。

 勝浦 日本の伝統文化の継承者の1人と言っていいだろう。一方で、新しさを持った石橋四段にも注目したい。

 野月 やはり面白いのは人間同士の戦いだということです。対局場に近い方はぜひ大盤解説会に足を運んで、そのあたりを楽しんでもらいたいです。私自身、小学生時代に最初に見たタイトル戦が、札幌で行われた第一期女流王位戦第一局でした。子ども心に「カッコいいな」と思い、それが棋士になるきっかけになりました。

 勝浦 ほう、それは初めて知った。


日程

 ▼第1局 10月2日(火) 福岡県飯塚市「旧伊藤伝右衛門邸」
 ▼第2局 10月12日(金) 兵庫県姫路市「イーグレひめじ」
 ▼第3局 10月17日(水) 北海道苫小牧市「グランドホテルニュー王子」
 ▼第4局 10月23日(火) 徳島市「ホテルクレメント徳島」
 ▼第5局 11月5日(月) 東京都渋谷区「将棋会館」


2団体の切磋琢磨に期待 将棋観戦記者 小池大志

 将棋の女流棋士はこの春、日本将棋連盟女流棋士会から日本女子プロ将棋協会(LPSA)が独立し二団体になった。構成人数は、女流棋士会40名(10月1日デビューの一名を含む)、LPSA17名。女流棋士会は、清水市代(女流王位・女流王将)、矢内理絵子(女流名人)、斎田晴子(倉敷藤花)らの実力者に加え、15歳の里見香奈ら若手有望株を有し層が厚い。LPSAは、中井広恵、石橋幸緒の元タイトル保持者を中心とする固い結束力で、対抗心を燃やしている。

 女流棋士の地位向上を旗印に、突如巻き起こった昨年の独立騒動。12月に開かれた臨時女流棋士総会で独立準備委員会が設置された際には、大多数が歩調を合わせるかにも思われた。結果的にそうならなかったのは、当初から慎重意見が少なくなかったうえ、連盟理事会との交渉過程で強い姿勢を打ち出した執行部の手法に、懐疑的な声が広がったからだ。組織内の意思疎通が十分でなかったことや、話し合いを穏便に進める調整役が不在であったことも、マイナス要因として働いた。

 最後まで全員一致の独立にこだわりを見せた推進派にとっては、無念の思いを引きずったままの船出になった。最終的に残留を選んだ人たちも、1人ひとりの胸中は複雑であったろう。

 けれど、袂(たもと)を分かって約4カ月。現在の女流棋界に、暗い影はない。両団体の精力的な活動ぶりは、それぞれが持ち味を生かし輝くばかりだ。

 LPSAは、チームワークと機動力がウリ。都心のオープンカフェを利用した路上イベントに始まり、1DAYトーナメントの実施や独自棋戦の開催、小学生女流名人戦の主催等々。サロン開設による、普及への取り組みにも熱が入っている。

 一方の女流棋士会は、総本山らしく正攻法で勝負。「日本の四季をめでながら全国のファンと交流を」を謳(うた)い文句に地方への普及活動を強化、将棋会館では日替わりのスーパーサロンと1日館長が好評だ。夏には浴衣姿で指導対局を行った。

 両団体とも、もちろん棋力向上への鍛錬に怠りがあろうはずはない。互いの創意工夫と切磋琢磨(せっさたくま)による、女流棋界のますますの発展を切に願う。 (文中敬称略)