西日本新聞

西日本新聞 医療・健康

連載・楽しい患者ライフ(波多江伸子)

<21>純真で心優しい看護学生

[更新日時]2008年03月24日

 看護専門学校や大学の看護学科で、非常勤講師として看護の倫理学を教え始めて25年。教師の私は年を取っていくのに、学生はいつも20歳だ。年齢差は開く一方で、最近は学生が末っ子か孫に見えて、思い切り甘い教師になってしまった。

 落第しないように試験の範囲はあらかじめしっかり教え、教室でお菓子を広げては「ちょっとひと休みしてお茶にしようよ」なんて、本当にわれながらおばあちゃんみたいだと思う。

 私の母も結婚前は九州帝大病院(現九大病院)で看護師をしていた。昭和ひとけたの時代。母は専業主婦になったが、仕事を続けた母の同僚はみんな生涯独身だった。

 夜勤のある看護職は仕事と家庭の両立が難しい。命を預かるという重い責任、患者・家族をはじめ職場の多様で複雑な人間関係に心身の消耗が大きな仕事でもある。離職率が高く、昔も今も慢性的な看護師不足。患者の安全のためにも、医療者にはゆとりのある労働環境で仕事をしてほしいと願う。余裕がある人は相手に注意深く、優しくなれるから。

 とはいえ看護の世界もずいぶん変わった。看護婦という呼び名が看護師に変わり、男性看護師が増えた。服装も以前とは違う。おなじみのナースキャップが実は細菌の温床だったと判明して廃止の方向へ。今は無帽で機能的なセパレーツの白衣が多い。サンダルだと血液がかかったりして感染の危険があるので足元も白いスニーカーに。

 さて、看護学生は3年次から4年次にかけて病棟へ実習に出る。年配の入院患者にとっては、緊張しながら自分に付き添ってくれる若い学生はなかなかかわいいものだ。話しやすい相手なので、気掛かりを遠慮なく口に出せる。

 ひと昔前までは、がんという病名は患者に秘密にされていた。病名を疑う患者が看護学生をつかまえて「本当はがんなんでしょ?」と問いただす。学生は困惑し、立ち往生して涙ぐむ。自分の表情から患者さんに予後の良くないことを知られてしまった、と悩む学生もいた。そんな悩みもインフォームド・コンセント時代の到来とともになくなってしまったが、代わりにいわゆる「告知」後のケア、という問題が出てきた。

 先日、実習から戻った学生たちが話していた。自分の余命を知っている終末期のがん患者を担当したら、病院に対する不満を次々に訴える。食事、看護師の対応、プライバシーのなさ…。詰め所に車いすで出かけては談判する。でも、誰もまともに相手にしない。学生が病棟の看護責任者にそう報告したら「あの患者さんは有名なクレーマーなのよ」と言われたのだとか。

 「でも、私たち、違うと思うんです。あの患者さんは病院の改善のために、自分が最後にできることは何かって一生懸命考えてくれていたんですよね」

 なんと純真で優しい学生たち。こんな受容の気持ちで接してくれる看護師さんに最期のケアはしてほしいものだ。
(作家、福岡市城南区、ブログ『波多江伸子の部屋!』のアドレス=http://hatae.nu/)

【写真説明】現在の看護師さんの制服。無帽で足元はスニーカー

=2008/03/24付 西日本新聞朝刊=

 ▼波多江伸子(はたえ・のぶこ)  作家、倫理学研究者。1948年、福岡市生まれ。西南学院大卒、九州大大学院博士課程満期退学。甲状腺がんと糖尿病の患者歴26年を生かし、臨床死生学を中心にした医療倫理学を専門とする。主な著書に「モルヒネはシャーベットで」「さようならを言うための時間─みんなで支えた彼の『選択』」などがある。

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