そうかと思えば、先日のこと。久しぶりに暇なので、気合を入れて夕食の支度をしていると電話がかかりました。「今、どちらですか?」。電話の主は、ある病院の総務課長です。どちらですかと言われても、かかっているのは自宅の電話です。向こうもかなり慌てた様子。不吉な予感がして「治験委員会、今日でしたっけ」と尋ねると、「そうですが、今日はもう無理ですね。ああ、今朝、確認しておけば良かった…」と、私のうっかりさ加減への認識が甘かったことを悔いておられました。私はその病院の治験審査委員の一人なのですが、私が出席しないと委員会が成立しない「外部委員」という立場なのです。超多忙な病院スタッフを30分も待たせた揚げ句、流会にしてしまいました。以前にも同じことをやっていて「前科2犯」。「もしかして」と、私は考え込みました。この物忘れは、ただの老化現象だろうか。認知症の始まりではなかろうか。そういえば、最近、固有名詞が思い出せず、いつも「あそこの、あれが」と指示代名詞ばかり使っています。でも、ある年齢以上になると、誰もが自分の記憶力の衰えにハッとしたり、やれやれと苦笑したりするものなのでしょうね。

音楽や文学に秀でた聡明(そうめい)な皇后・美智子さまが、76歳の誕生日にこんな感想を述べられました。「この数年仕事をするのがとてものろくなり、探し物がなかなか見つからなかったりなど、加齢によるものらしい現象もよくあり、自分でもおかしがったり、少し心細がったりしています」。老いていく人の気持ちが繊細に表現された率直なお言葉だと思います。
この連載も今回で最終回。幸い、これまで原稿の締め切りを忘れたことはありませんでしたが、やはり仕事がのろくなって1回分の原稿を書くのに、丸2日かかることもあります。そろそろ、ひと休みしたいので、ご愛読いただいた皆さま、私は、これにて失礼いたします。季節は寒さに向かいます。どうぞ、お元気でいらしてください。
=おわり
(はたえ・のぶこ=福岡市城南区)
【写真説明】唐辛子と庭の柚子(ユズ)で、今年は柚子ごしょうを作ります。自家製はおいしいです
=2010/11/08付 西日本新聞朝刊=





