「巷(ちまた)に雨の降るごとく/わが心にも涙ふる。かくも心ににじみ入る/このかなしみは何やらん」(金子光晴訳)
ヴェルレーヌはうつ病だったと言われています。詩人ではないけれど、私も2年前からうつ病の治療をしています。
私のように、おしゃべりで活動的な人間がうつ病になるなんて不思議ですが、これは、お笑い芸人でも、スポーツ選手でも、だれでもかかる病気のようですよ。脳内にあるセロトニンやノルアドレナリンといった「元気の素」が減ってくると、エネルギーが低下してこれまで簡単にできていたことが面倒になります。仕事で電話をかけること、着替えて買い物に出かけること…そんな日常のささいな行動がとても大仕事のように感じられるのです。
神経か筋肉の重大な病気になったのではないかと心配になるほど脱力感で手足に力が入りません。じっとしていられないような焦燥感にも悩まされました。身体なのか心なのか発生源のはっきりしないイライラ感のせいで、ものごとをやりとげる根気が続きません。決断力が落ちて迷ってばかりいます。こうして体験してみると、うつ病は心の病というより脳の不調ですよね。脳という、心と身体の総合司令塔のバッテリーが切れかかって機能低下している感じです。
発症当時、特に大きな問題を抱えていたわけではなかったのですが、ただ、とても忙しくて、自分の体力気力をはるかに超えた活動をしていました。要するに「過労」だったのです。友達の紹介で駆け込んだ精神科の診察室で、私のもろもろの訴えを聞いた後、トシコ先生は言いました。「あなたがやらなくても、ものごとはそれなりに回っていくのよ。思い切って休んだら?」
うつ病治療には、休息と薬物と精神療法の3本柱がありますが、私は、抗うつ剤を飲みながら極力仕事を減らして休養することにしました。(はたえ・のぶこ=福岡市城南区)
【写真説明】雨の庭に落ちた椿
=2010/03/15付 西日本新聞朝刊=




