▼幅広い年齢層
「胃液が込み上げてくるほどせき込み、夜も眠れないほどでした」。福岡市内の会社員男性は1年前の冬、かぜをきっかけに出始めたせきが1カ月以上たっても治まらなかった体験をこう振り返る。市販のせき止めを飲んでも効果はなく、重い腰を上げて訪れたクリニックで「せきぜんそく」と診断された。吸入ステロイド薬などを処方されると、1週間ほどでせき込むことはなくなった。
せきぜんそくは、通常の気管支ぜんそくとは異なり、呼吸時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音(喘鳴(ぜんめい))がしないことが特徴だ。痰(たん)もほとんど絡まない「空ぜき」で、発熱も伴わない。くだんの男性のように、深夜や早朝に症状が悪化することが多く、患者は子どもから高齢者まであらゆる年代にまたがる。

国立病院機構福岡病院(福岡市南区)呼吸器科の野上裕子(ひろこ)部長は「せきぜんそくの患者は明らかに増えている」と指摘する。福岡病院の場合、胸部エックス線や聴診検査で異常がないにもかかわらず8週間以上せきが続く外来患者のうち、半数以上がせきぜんそくと診断されるという。
▼再発しやすく
せきぜんそくもぜんそくと同様、空気の通り道となる気管支の粘膜が炎症を起こし、収縮して狭くなるために連続したせきの発作が起きると考えられている。野上医師によると、風邪に併発して起こるほか、季節の変わり目の気温の変化や、運動、たばこの煙など発作を招く刺激は人によって異なる。約半数は花粉やダニ、ハウスダスト(室内塵(じん))などに対するアレルギー反応が関係しているとみられるという。

治療はぜんそくとほぼ同じで、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬と、せきを抑える気管支拡張薬を用いるのが基本となる。吸入タイプのステロイド薬は飲み薬と異なり、全身の血液にはほとんど吸収されないため副作用も少ないとされる。体力が落ちた患者などは、せき止めに効く「麦門冬湯(ばくもんとうとう)」「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」などの漢方薬との併用が有効な場合もある。
注意したいのは再発のしやすさだ。せきぜんそくはいったん症状が治まったようにみえても約3割が気管支ぜんそくに移行するといわれている。野上医師は「ぜんそくへの移行率は放置すれば高まり、早期に治療すれば十数%台まで下げることも可能。息長く治療を続けることが大切」と助言する。
▼自己診断禁物
せきぜんそくは日本では胸部エックス線に異常がみられず、8週間以上続くせき患者の原因の半数近くを占める。米国など欧米と比べても、その割合は高い。しかしほかの病気が引き起こす「長引くせき」もある。
季節の変わり目に悪化する症状の出方やアレルギーの関与という点でせきぜんそくと似ているのが「アトピーぜき」。この病気はせきぜんそくに用いる気管支拡張薬ではなく抗ヒスタミン薬が治療薬となるので、せきぜんそくと区別する必要がある。鼻がつまりやすく、鼻汁がのどに流れてくるなどの症状があるようならば「後鼻漏」や「副鼻腔(びくう)気管支症候群」が疑われる。
肥満の人の中には、胃酸や胃の内容物が逆流して食道を刺激することでせきを誘発する「胃食道逆流症」もみられる。昨年過去最高の患者発生を記録した「100日ぜき」はかつては子どもの病気とされていたが近年成人の発症が増えている。軽い風邪のような症状で始まった後、次第にせきが強まるようならばこの病気の可能性もある。
野上医師は「せきの診断は難しいものが多い。自己診断せず早めに受診してほしい」と話している。
【写真説明1】野上裕子医師
【写真説明2】長引くせきの原因疾患
=2009/03/15付 西日本新聞朝刊=





