福岡市東区に住む77歳の男性は昨年10月、この治療を受けたことで、7年間も苦しんだ尿漏れから解放された。
採血による腫瘍(しゅよう)マーカー検査「前立腺特異抗原(PSA)検査」で早期のがんが見つかった男性は、2003年の夏に完治を目指して手術を受けた。尿漏れは術後に起きやすい合併症だった。
前立腺がんの手術は、前立腺そのものと精嚢(せいのう)、リンパ節を摘出し、膀胱(ぼうこう)と尿道を縫い合わせる。その際、尿道を締める筋肉である括約筋を傷つけてしまうことがある。
男性の場合、座ったり寝たりしているときは問題なかったが、立ち上がった瞬間に尿が流れ出た。歩くと下着がぐしょぐしょになった。
下着に尿パットをつけ、1日に4―5枚交換した。外出すれば「においはしないだろうか」「パットをどこに捨てようか」と気にしながら行動しなければならない。冬は、ぬれたパットで下半身が凍えるほどだった。
器具を埋め込む治療を受けた男性は「ストレスがなくなった」と語る。今年の初詣ででは、神社近くの喫茶店で好きなコーヒーを心ゆくまで楽しむことができたという。
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一般的に、前立腺の摘出手術を受けた70%ほどの人が一時的な排尿障害になるといわれる。多くは数カ月で治るが、20―10%の人はその後も続く。おなかに力を入れたら少量の尿が出る例が大半だが、2―1%の確率で、ひどい尿漏れを起こすことがあるという。
症状が軽い人は、寝たり、いすに座ったりして5秒程度、肛門(こうもん)をキュッと締める体操を繰り返すのが効果的とされる。この体操で尿道括約筋の一部が回復すれば、尿漏れの頻度は少なくなる。
このほか、コラーゲンを注射することで尿道を狭くし、漏れる量を減らす方法もあるが、重症の人には十分な効果が得られにくいという。
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男性の手術を担当した原三信病院(福岡市博多区)の武井実根雄(みねお)泌尿器科部長は「症状が重い人には、人工尿道括約筋をつけるしか手はありません」と説明する。
米国で開発された「人工尿道括約筋」は、シリコンでできている。尿道の一部を、カフと呼ばれる直径4―5センチのリング状の器具で包み込む。カフは、内部を通る特殊な液体の水圧によって緩んだり締まったりする。普段は締まっており、患者は尿意を覚えると、陰嚢(いんのう)に埋め込まれた水圧を調整するコントロールポンプのボタンを操作することによって排尿する-というしくみだ。

武井医師によると、人工尿道括約筋をつける手術は2時間程度で、患者の満足度も高いというが、課題もある。健康保険が適用できず現在は全額自己負担。一部の病院では先進医療に指定され、入院費などに保険が利くが、それでも180万―200万円程度かかる。
また、発売元の日本代理店「タカイ医科工業」(東京)によると、この手術が原因で感染症を起こす例が2・7%。体内の組織にただれが生じる例も5・4%確認されているという。武井医師は「早く保険適用され、この治療法が多くの人に広まることを願っている」と話している。
【写真説明1】武井実根雄医師
【写真説明2】人工尿道括約筋のしくみ
=2010/01/18付 西日本新聞朝刊=




