◆動脈硬化が原因
エックス線が写しだした胸部の血管は、一部がぷっくりと風船のように膨らんでいた。福岡県大野城市に住む女性(74)は2月、健康診断で胸部大動脈瘤が見つかった。
2度目だった。9年前にも患い、胸を大きく切開して、患部の血管を人工血管に置き換える手術をしていた。
「再び胸を切開する手術は、体に大きな負担がかかり難しい」。9年前に手術を受けた病院の医師から女性はこう告げられ、久留米大学病院の心臓血管外科グループが手掛けるステントグラフト内挿術を紹介された。

全身に行き渡るすべての血管の“幹”である大動脈は、心臓から胸部を通って腹部に延びる直径2、3センチの太い血管だ。その血管の壁が、動脈硬化によって弱くなり、血圧に負けて膨らんでくる疾患を大動脈瘤という。瘤ができる場所によって胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤に分かれる。
くだんの女性も「痛みはなく、病気であることに気付きませんでした」と言うように、大動脈瘤は破裂しない限り自覚症状は少ない。だが久大病院心臓血管外科の鬼塚誠二医師は「破裂すれば大出血を起こし、手術でも救命することが難しい」と警告する。
◆バネ付き「血管」
治療に用いるステントグラフトとは、どういうものだろうか。
「金属製のバネを装着した、化学繊維や化学物質の素材で作られた人工血管のことです」と鬼塚医師は説明する。
治療は、太ももの付け根を5センチほど切って、そこを通っている動脈にカテーテルを挿入する。カテーテルの中には、小さく折り畳んだステントグラフトが事前に入れ込んである。

カテーテルが動脈瘤に到着したところでステントグラフトを開く。開かれたステントグラフトは血管の形状を固定して、飛び出た瘤の部分に血液が入り込まないようにする役割を果たす。動脈瘤の中に血液が流れ込まないようになれば、膨らみはしぼむ。
厚生労働省は2006年、米国企業が製造販売する腹部用ステントグラフトの使用を認可。今年3月には胸部用も認可した。1999年からステントグラフト内挿術に取り組む久大病院では、かつては医師がステントグラフトを手作りしていたという。胸部用の既製品を導入した今年は、大野城市の女性を含めて6人を治療した。
◆適用は半数ほど
「患者さんの体の負担を軽減できる」(鬼塚医師)のが、ステントグラフト内挿術の最大の長所だ。手術は2、3時間程度で、出血も少ない。
一方、今でも大動脈瘤治療の基本とされているのは、胸や腹を切開し、患部を人工血管に置き換える手術だ。瘤ができた場所によっては、心臓を止めて人工心肺装置を使用したり、全身の循環血流を停止させたりと複雑な補助手段が必要な場合もある。鬼塚医師によると、こうした手術は時間が長く掛かり、出血も多いという。
そのため、心臓や肺が弱い人や、体力のないお年寄りには「切らずに治す」ステントグラフト内挿術が効果的とされる。大野城市の女性のような再発した例にも有効だ。
ただ、血管の形状などによっては適さないこともあり、すべての患者に適応できる治療法ではない。久大病院でも、大動脈瘤の患者のなかでステントグラフト内挿術を行うのは半数ほどという。
治療にあたっては、医師にも高い技術が求められる。心臓や血管など関連する医学会が「ステントグラフト実施基準管理委員会」をつくり、医師の研修をはじめ施設の設備、診療科をまたいだ協力態勢など基準を定めている。
久大病院は「医師とよく相談して、ふさわしい治療法を決めるのが大事です」と言う。
【写真説明1】既製品のステントグラフトを手にする鬼塚誠二医師。カテーテル(机上の青い管)を通して患部に装着する
【写真説明2】ステントグラフト内挿術のしくみ
=2008/11/30付 西日本新聞朝刊=




