■患者さんと握手しただけでどうして涙が出るんだろう
クリスマスが近づいた今月半ば。佐賀市の佐賀県立病院好生館の緩和ケア病棟(ホスピス)に、2年生21人の歌声が流れた。
この病棟の平均在院日数は30日余り。入院して数時間で亡くなる人もあれば1年以上過ごす人もあるが、いずれにしても人生の最後に向き合う場所である。
ベッドや車いすで耳を傾ける人たち。一方は、背丈もばらばらの中学生たち。ハンドベルの演奏、詩の朗読と準備したとおりに進めつつも、緊張しているのが見てとれる。
クリスマスソングに移った。患者、家族、職員、ボランティア、教師が手拍子を送るなか、生徒は男子も女子も、うつむいて泣き始めた。『故郷(ふるさと)』は全員で声を合わせた。
「握手してください」
がんの末期と診断された80歳の女性に歩み寄った松尾和泉さん(13)は、こう言って手を差し出すのが精いっぱいだった。
女性はあちこちうっ血している細い手で、生徒たちの手をいとおしそうになでる。「手が冷たいね。なかなかぬくもらんね」。手を握られて吉谷彩華(あやか)さん(14)は大粒の涙をこぼした。
「あなたたちは今日、なんでこんなに涙が出るんだろうか、という経験をしたと思います。患者さんたちともう会うことはないでしょう。でも、最後に出会えた。あなたたちを思って握ってくださったぬくもりを忘れず、これからの一日一日に生かしてください」
引率した渡辺明美教諭(40)は、この日の訪問授業をそう締めくくった。
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生と死の授業は1年生から3年生まで一貫して行われ、今年で7年目になる。授業をサポートしているのは、市民でつくる「佐賀のホスピスを進める会」だ。
結成時は、好生館に緩和ケア病棟の開設を求める会だった。1998年に病棟ができると「死に向き合う大切さは健康な人にも無縁ではないはず」と新たな方向を模索し、会の仲間と東部中の養護教諭とが旧知だった縁で授業を始めた。
子どもたちに伝えているのは、命には限りがあること、命は先祖から連綿と伝えられ、誰か1人でも欠けていたら自分は誕生しなかったこと、そして自らも命のリレーの中に存在すること。そこから自尊感情や、他者への思いやりをはぐくんでいく。
加えて会員の僧侶、五十嵐雄道(ゆうどう)さん(51)は言う。
「死から考えて、初めて自分はどう生きていくのか、ということも導き出せるのだと思っています」
しかし8割の人が医療機関で最期を迎える日本において、中学生が身近に死を体験する機会は限られている。一方で、2人に1人ががんになるといわれる時代でもある。
今月は、3年生の総括授業も行われた。白木直人校長(57)たち教員が、がんで余命半年と分かった父親とその家族、主治医を演じ「父親だったら告知を受けたいか」や「最期をどう迎えたいか」と考えさせた。
「死は理不尽であり、目をそらさずに悩む力も身に付けてほしい」と五十嵐さんは語りかけた。
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緩和ケア病棟を訪れた2年生に後日、なぜ涙が出たと思うか、と尋ねると、二つの言葉が浮かんできた。
おばあさんに手を握ってもらった松尾さんは「行く前は、どういう所か想像がつかなくて怖かった」と正直に振り返り「うちらのために患者さんが笑顔で迎えてくれて感動した」と言った。真名子美幸さん(14)は、患者の姿に急死した祖母を思い出し「夢に向かって生きんしゃい」と励まされて泣いたという。
成長期にあって、生きていることが当たり前と思いがちな中学生が、死に対して抱くのは「恐れ」である。それが、死に直面してもなお自分たちを思いやってくれる人の姿に接して、命への「畏(おそ)れ」に変わったのではないか。
好生館から学校に戻るバスの中で、生徒たちはにぎやかに歌っていたという。翌週訪れた別の生徒たちは「あまり泣くと患者さんにつらい思いをさせるのでは」と涙を耐えた。それも学びである。
渡辺教諭は「これがこの子たちの本当の姿なんだと、私たちも気付かせていただきました」と話した。
【写真説明】末期がんの女性と手を握り合い、涙を流す中学生=佐賀県立病院好生館
=2009/12/28付 西日本新聞朝刊=




