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<生と死の授業>14歳が体験するホスピス訪問 佐賀県多久市・東部中学校 死を知って、命の尊さを知る

[キーワード]介護医療情報

[更新日時]2009年12月28日

 命を大切にしましょう、と言うのはたやすい。でも本当は、命には限りがあって、誰しも死から逃れられないということに気づくことから、自らも生かされているという尊さを実感できるのではないだろうか。佐賀県多久市にある生徒数158人の東部中学校は、いわゆる「終末期」にある人と出会うことによって「生と死」を考える授業に取り組んでいる。大人だって直視するのが難しい命題に、多感な13、14、15歳が向き合う。その姿を伝えたい。

 ■患者さんと握手しただけでどうして涙が出るんだろう

 クリスマスが近づいた今月半ば。佐賀市の佐賀県立病院好生館の緩和ケア病棟(ホスピス)に、2年生21人の歌声が流れた。

 この病棟の平均在院日数は30日余り。入院して数時間で亡くなる人もあれば1年以上過ごす人もあるが、いずれにしても人生の最後に向き合う場所である。

 ベッドや車いすで耳を傾ける人たち。一方は、背丈もばらばらの中学生たち。ハンドベルの演奏、詩の朗読と準備したとおりに進めつつも、緊張しているのが見てとれる。

 クリスマスソングに移った。患者、家族、職員、ボランティア、教師が手拍子を送るなか、生徒は男子も女子も、うつむいて泣き始めた。『故郷(ふるさと)』は全員で声を合わせた。

 「握手してください」

 がんの末期と診断された80歳の女性に歩み寄った松尾和泉さん(13)は、こう言って手を差し出すのが精いっぱいだった。

 女性はあちこちうっ血している細い手で、生徒たちの手をいとおしそうになでる。「手が冷たいね。なかなかぬくもらんね」。手を握られて吉谷彩華(あやか)さん(14)は大粒の涙をこぼした。

 「あなたたちは今日、なんでこんなに涙が出るんだろうか、という経験をしたと思います。患者さんたちともう会うことはないでしょう。でも、最後に出会えた。あなたたちを思って握ってくださったぬくもりを忘れず、これからの一日一日に生かしてください」

 引率した渡辺明美教諭(40)は、この日の訪問授業をそう締めくくった。

     ∞

 生と死の授業は1年生から3年生まで一貫して行われ、今年で7年目になる。授業をサポートしているのは、市民でつくる「佐賀のホスピスを進める会」だ。

 結成時は、好生館に緩和ケア病棟の開設を求める会だった。1998年に病棟ができると「死に向き合う大切さは健康な人にも無縁ではないはず」と新たな方向を模索し、会の仲間と東部中の養護教諭とが旧知だった縁で授業を始めた。

 子どもたちに伝えているのは、命には限りがあること、命は先祖から連綿と伝えられ、誰か1人でも欠けていたら自分は誕生しなかったこと、そして自らも命のリレーの中に存在すること。そこから自尊感情や、他者への思いやりをはぐくんでいく。

 加えて会員の僧侶、五十嵐雄道(ゆうどう)さん(51)は言う。

 「死から考えて、初めて自分はどう生きていくのか、ということも導き出せるのだと思っています」

 しかし8割の人が医療機関で最期を迎える日本において、中学生が身近に死を体験する機会は限られている。一方で、2人に1人ががんになるといわれる時代でもある。

 今月は、3年生の総括授業も行われた。白木直人校長(57)たち教員が、がんで余命半年と分かった父親とその家族、主治医を演じ「父親だったら告知を受けたいか」や「最期をどう迎えたいか」と考えさせた。

 「死は理不尽であり、目をそらさずに悩む力も身に付けてほしい」と五十嵐さんは語りかけた。

     ∞

 緩和ケア病棟を訪れた2年生に後日、なぜ涙が出たと思うか、と尋ねると、二つの言葉が浮かんできた。

 おばあさんに手を握ってもらった松尾さんは「行く前は、どういう所か想像がつかなくて怖かった」と正直に振り返り「うちらのために患者さんが笑顔で迎えてくれて感動した」と言った。真名子美幸さん(14)は、患者の姿に急死した祖母を思い出し「夢に向かって生きんしゃい」と励まされて泣いたという。

 成長期にあって、生きていることが当たり前と思いがちな中学生が、死に対して抱くのは「恐れ」である。それが、死に直面してもなお自分たちを思いやってくれる人の姿に接して、命への「畏(おそ)れ」に変わったのではないか。

 好生館から学校に戻るバスの中で、生徒たちはにぎやかに歌っていたという。翌週訪れた別の生徒たちは「あまり泣くと患者さんにつらい思いをさせるのでは」と涙を耐えた。それも学びである。

 渡辺教諭は「これがこの子たちの本当の姿なんだと、私たちも気付かせていただきました」と話した。

【写真説明】末期がんの女性と手を握り合い、涙を流す中学生=佐賀県立病院好生館

=2009/12/28付 西日本新聞朝刊=

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