●電極を植え込む

この手術は、薬による治療と同じく完治するものではない。震えや小刻み歩行などの不随意運動を制御する脳の働きを止める対症療法である。
電極を植え込む場所は症状によって決まる。震えを抑えるには視床(ししょう)、小刻み歩行など進行した患者には淡蒼球(たんそうきゆう)や視床下核(ししょうかかく)が選ばれる。いずれも大脳基底核と呼ばれる脳の奥深くにある。
あらかじめ磁気共鳴画像装置(MRI)で撮影した脳の3次元コンピューター写真をもとに電極を植え込む位置を特定。わずかでもずれると声が出なくなるなど深刻な事態を招くため、手術は左右、前後、上下に細かい目盛りのついたフレームで脳を固定し、局所麻酔のもと、あおむけになった状態で行われる。定位脳(ていいのう)手術という方法である。
●胸部には発信機
貝塚病院機能神経外科(福岡市東区)主幹の島史雄(ふみお)医師は、九大助教授だった1996年以来、720人に脳深部刺激療法を行ってきた。
島医師の手術は、まず頭の皮膚を直径2センチほどはがし、頭蓋(ずがい)骨に直径4ミリの穴を開ける。そこから脳の皺(しわ)と皺の間を、先端に電極のついた直径1.3ミリのリード線をまっすぐに差し込み、約7センチ奥の目標に到達させる。多くの患者は左右とも症状があるため、手術は両側に行う。
脳に電極を植え込んだあとは、電気信号(パルス)発信機を胸部の皮下に埋め込み、脳の電極とケーブルでつなぐ手術を全身麻酔下で行う。発信機は縦横5センチ、厚さ8ミリ程度で、リチウム電池が内蔵されている。
手術を受けた患者は、リモコンで発信機のスイッチを操作する。24時間入れっぱなしの患者が多い。電池が切れれば病院で交換する。
手術時間は島医師の場合、電極の植え込みが2時間以内、発信機の取り付けが1時間半程度という。費用は合計で約360万円。特定疾患の認定を受けている人は公費負担が受けられるほか、2000年から保険適用になった。
●効果乏しい人も
島医師によると、手術を受けることで、小刻み歩行だった人が駆け足ができるようになるなど著しい改善がみられるという。薬の量も減らすことができる。
ただし認知症の人や全身疾患がある人、ひどい高血圧の人などは手術の適応は難しい。またパーキンソン病は進行するので、手術を受けた後で出てきた症状を改善することはできない。症状によっては効果が乏しい人もいる。
脳出血など取り返しのつかない合併症の危険もわずかだがあり、医師の技量が問われる手術ともいえる。
◇ ◇
震えの症状を改善するには、脳深部刺激療法のほか、高周波加熱で視床を固める脳凝固手術もある。
●特定疾患見直し 撤回強く求める 患者会

パーキンソン病の人たちにとっていま最も気掛かりなのは、比較的軽い患者を特定疾患(厚生労働省指定難病)の補助対象から外そうという動きである。厚労省の特定疾患対策懇談会が8月、医療費が公費負担される45の特定疾患のうち、パーキンソン病と潰瘍(かいよう)性大腸炎について適用範囲を狭める方針を決めたからだ。
パーキンソン病の場合、補助対象の重症度3(8日のイラスト参照)以上は7万3000人。患者5万人未満という要件を上回っているのが見直しの理由とされるが、全国パーキンソン病友の会などは、月内といわれる決定を前に方針撤回を強く求めている。
福岡県支部長の徳永武重さん(73)=福岡市早良区、写真=は「5段階の重症度のなかで3度が除外になるといわれているが、日々の薬代などは寝たきりの5度より3度の人が高額で、月に数万円はかかる。リハビリも上限180日となり、最も医療が必要な人が切り捨てられることになる」と訴える。
●「すくみ足」を助けるつえ ―患者と医師が開発―

パーキンソン病の症状として、歩こうと思っても最初の一歩が踏み出しにくい「すくみ足」がある。
このため患者は「いち、に、いち、に…」と声でリズムをとったり、自宅の床に歩幅に合わせたテープを張ったりして踏み出すきっかけをつかんでいる。
だが、自宅以外で声を出すのは気が引けるし、床のテープもない。こんな不安を少しでも解消するために、徳永武重さんが患者仲間や医師と共同開発したのが歩行補助つえ「始めの一歩」だ。
一見すると普通のつえだが、手元のスイッチを押すと30センチほど前方に赤いレーザー光が横線になって出る。「この線をまたごう」と意識することで一歩が踏み出せるという。ただし、屋外ではレーザー光はかすんで見えにくい。
2万円。問い合わせは徳永さん(表参照)へ。





