
カンボジアで活動する非政府組織(NGO)の明(あけ)博志さん(39)がバンコクのバムルンラード国際病院に緊急搬送されたのは2月8日だった。
明さんは前夜、カンボジアの首都プノンペンで転倒、あごを複雑骨折した。地元病院では十分な治療ができないと判断され、空路運ばれて13日間入院した。
シャワー、トイレ付きの個室。薄型の大画面テレビでNHKの海外向け放送が見られ、インターネットも使えた。加入していた保険の手続きは日本人スタッフがやってくれ、病院への支払いは不要だった。
「安心して過ごせた。流動食だったので、おいしいと評判の病院食を体験できなかったのが残念」。明さんは退院後、大阪の実家に戻り順調に回復、3月末にはカンボジアに戻った。
▼13言語の通訳
バムルンラード国際病院の昨年の患者数は約110万人。うち4割近くを外国人が占める。

13言語に対応できる100人超の通訳。各国料理をそろえたレストランにスターバックス。イスラム教の礼拝室もある。ビザ延長や観光案内も院内で請け負う。民族衣装の患者が行き交う光景はリゾートホテルと見まがうばかりだ。
同病院の患者は以前はタイの富裕層が中心だったが、1997年のアジア通貨危機で減ったことなどから欧米人をターゲットにした。2001年の米中枢同時テロ以降は中東からの患者が急増した。入国や滞在に厳しくなった欧米を敬遠してタイやシンガポールに流れたためだ。
医療費の自己負担が重い欧米に比べ、アジアは割安。高度な治療の場合、「旅費、滞在費を含めても安い」(同病院)。同病院には大学病院や別の医療機関の高名な医師も診察に来ており、指名できるのも魅力だ。タイのほかシンガポールやインドなどが患者獲得にしのぎを削っている。
▼日本から視察
医療観光市場が活況を帯びる中、日本からの患者は低迷している。同病院の昨年の日本人患者数は約3万8千人。国別では、アラブ首長国連邦、米国に続いて3位。ただ大半はタイ在住者。明さんのように周辺国からも来るが、日本から直接、訪れる人は少ない。
一定水準の医療サービスを国民皆保険で受診できるため、通常の治療にわざわざタイに来るメリットは低いのが現実だ。
一方で、バンコクの病院には日本からの視察が相次いでいる。医療法人や行政の担当者が、中国などの富裕層を視野に医療観光のノウハウを学びに来ているのだ。
バムルンラード国際病院の田村優子・日系市場セグメントマネジャーは「日本の医療水準は問題ないが、患者を誘致するには、医療知識と語学力を備えたコーディネーターが重要。そこが充実してこそ、安心して外国で治療を受けてもらえる」とアドバイスしている。
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●ワードBOX=医療観光(メディカルツーリズム)
医療費の高い欧米の人が、割安なアジアに出掛ける傾向は10年ほど前からあった。シンガポールを先駆けにタイ、マレーシア、インド、台湾などが力を入れている。これらの国は観光資源も豊富で、治療と一緒に観光を楽しむ人もいる。欧米や日本で学んだ医師も多い。日本からの患者は美容整形や性転換など保険が適用できない分野が多い。日本でも成長市場として注目され、経済産業省や観光庁が調査を始めた。外国人患者の誘致に積極的な病院もある。
【写真説明1】健康診断センターの待合室。健診が終わると、飲み物のほか、サラダや果物が自由に取れる=バンコクのバムルンラード国際病院
【写真説明2】同病院のレストランのひとつ。マクドナルドから有名レストランまで多彩に出店している
=2010/04/05付 西日本新聞朝刊=




