■「現場で悩みながら向き合う、高い志に出会えた」
急速に進む晩婚化とさまざまなストレスの増加で、不妊に悩むカップルは7組に1組ともいわれている。体外受精で生まれる子どもは新生児の56人に1人で、いまや体外受精は不妊治療の主流となっている。
須藤さんがエンブリオロジストの存在を知ったのは、自らが受けていた不妊治療の場だった。「医師でも看護師でもない、白衣を着ているこの人は何者なんだろう」。治療には1年半通ったが、授かることはできなかった。病院では「あなたの卵子が悪い」と言われたこともあった。「本当に私に原因があるのだろうか、技量がないことを私の卵子のせいにしているんじゃないかと、納得できなかった。自分の気持ちを整理するためにも、彼らがどんな気持ちで何に悩み、喜び、苦しみながら『いのちの素』と向きあっているのかを知りたくなったんです」
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取材を始めて間もなく、配偶子や受精卵、精子の培養や受精操作、凍結保存などを扱うエンブリオロジストは生殖補助医療に欠くことができない存在でありながら、国家資格もない「あいまいな職業」と知った。
資格は、日本哺乳(ほにゅう)動物卵子学会が認定する「生殖補助医療胚培養士」と、日本臨床エンブリオロジスト学会が認定する「臨床エンブリオロジスト」の2種類で、いずれの学会も講習や実習、面接を経て認定される。主に臨床検査技師や衛生検査技師のほか、動物の生殖を研究してきた人が資格を取るケースが多い。
昨年2月には、香川県で起きたエンブリオロジストによる受精卵取り違え事故が発覚。厚生労働省は初の実態調査に乗り出し、全国に約1400人のエンブリオロジストがいることが初めて明らかになった。
須藤さんが驚いたことの一つが、培養液が試薬という事実だった。品質に問題ないことは複数のエンブリオロジストが断言しているものの、臨床試験を経ておらず、法的には有効性や安全性が認められていないのだ。
ただ、それは見方を変えれば「試薬だからこそ改良された新製品を臨床に使い、治療に生かすことができた。あいまいさゆえの進歩がなければ、生まれ得なかった子どももいるかもしれない」と考えている。
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著書では、須藤さんが全国に訪ねたエンブリオロジストたちの奮闘の日々がつづられている。20人以上の大所帯もあれば、たった1人でいのちを預かる人もいる。
〈患者さんに赤ちゃんを抱っこしてもらいたい〉〈生命誕生に携わる聖職だと思っている〉という彼らの言葉に触れ、須藤さんは「患者だけでなく、エンブリオロジストも見えないトンネルの中でさまよい、もがいていた。高い志でいのちと向きあっている人に出会えてうれしかった」という。
あいまいな立場ゆえ、エンブリオロジストをめぐる課題は山積しているが、須藤さんは次のように提言する。
「そろそろ社会全体の問題として、生殖補助医療をどう考えていくのかを議論すべきだし、代理母のようなセンセーショナルな部分だけでなく、全国どこでも安心して不妊治療が受けられるような整備が必要です」とし、資格についても「二つの学会の資格を統合して、更新制度や研修システムも含め、エンブリオロジストになるには必ずこの資格がいるという仕組みを確立してほしい」と訴える。
本書の取材中に自然妊娠し、男の子を授かった須藤さんは「生殖補助医療のこれからをライフワークとして追っていきたい」と話している。
▽「エンブリオロジスト」は小学館刊、1575円。
【写真説明1】「ライフワークとして取材を続け、社会に発信していきたい」と話す須藤みかさん
【写真説明2】出版された「エンブリオロジスト―受精卵を育む人たち」
=2010/03/01付 西日本新聞朝刊=




