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長寿県 長野の取り組み<下>デイケア活動の先駆けに 在宅を支える態勢充実 医療サービス、個人に合わせて

[更新日時]2010年02月15日

 蓼科(たてしな)高原を望む長野県茅野(ちの)市の中心部にあるリバーサイドクリニックの所長安藤親男医師(54)は、小型の四輪駆動車を運転し、山あいにある両角(もろずみ)玖郎(くろう)さん(79)宅に向かった。白衣の安藤医師が茶の間に入ると、ベッドに横たわる玖郎さんは声を絞り出した。

100215feature.jpg 「センセー、酒持ってきたかー」

 「はいはい、正月に飲んだでしょ。飲みすぎはいけません。診せてもらうよ。早く済ますでね」

 笑顔で応じ、胸に聴診器を当てた。診察が一段落すると、今度はこたつに腰を入れ、奥さんの君子さん(76)と話を始めた。

 玖郎さんは認知症を患っている。数年前には脳梗塞(こうそく)も発症して寝たきりだ。夫婦で暮らし、看病するのは君子さんだけ。安藤医師は入院を勧めもしたが、夫婦の願いは自宅にいることだ。
 でも、君子さんの負担は大きい。車の運転ができず、買い物も歩いて行く。「最近は左足がきつい」と漏らした。安藤医師は、息子さんは近ごろ訪ねてきましたかなど、雑談のなかで生活ぶりを確かめていく。ケアマネジャーと情報交換しながら、病だけでなく2人の暮らしをみているという。

 「いつものように薬局から薬を届けますよ」と言われた君子さんは、深々と頭を下げた。

 平均寿命は長く、老人医療費は少ない長野県。その背景として、高齢者の就業率や在宅死亡率の高さが挙げられる。

 例えば2005年の人口動態調査によると、65歳以上の就業率は29・9%で全国平均より8ポイント以上高い。さらに兼業を含む農家の数は12万7千世帯と全国トップ。長野県健康づくり支援課の小林ゆかり係長は「定年退職後も農業やボランティア活動に打ち込む、元気なお年寄りがたくさんいるのです」と話す。

 そんな人が多いからだろう、長野では「ピンピンコロリ」(ピンピン長生きしてコロリと臨終する)という言葉が良い意味でよく使われる。在宅死亡率が高ければ、入院費はかさまず、医療費は少なくなる。
 それでも体を壊すお年寄りはいる。そうした人の生活を支えるのが、在宅医療に熱心な医療従事者だ。

 特に茅野市は長野県で最も老人医療費が少ない市だという。安藤医師のクリニックは、市が開設した「西部保健福祉センター」の中にある。

100215feature_2.jpg センターにはデイサービス施設や社会福祉協議会、公民館も入居している。ここに来れば病気やリハビリ、介護や福祉のことなどすべてを相談でき、安易な入院は避けられるという。市は医療・福祉の拠点施設と位置づけており、市内にはこうしたセンターが4カ所ある。「一人一人に合った医療サービスを目指しています」と安藤医師は言った。

 「がんばらない」「あきらめない」

 茅野市の諏訪中央病院の1階の廊下に、力強い筆致のポスターが並んでいた。同病院は、一帯の自治体による組合立で地域医療の中核病院だ。

 1980年ごろ、この地域は脳卒中による死亡率が高かった。事態を憂慮した若手の医師たちは勤務が終わって地域の公民館を回り、住民を集めては塩分を減らすなど生活習慣を見直すよう説いた。公民館80カ所を訪問した年もあったという。

 当時、若手医師の1人として奔走したのが『がんばらない』などの著作で知られる鎌田實(みのる)名誉院長。住民が生活習慣を変え、予防に取り組むことで、次第に脳卒中は減っていったという。
 82年に国内で先駆けてデイケア活動を始めたのも諏訪中央病院という。デイケアが診療報酬の対象になっていなかった時代である。

 きっかけは鎌田医師が往診の際、寝たきりの患者を支える家族が疲れている姿を見たからだ。少しでも負担を減らしたいと思い、患者を病院に連れてきて、レクリエーションをしながら1日預かった。当時としては珍しい活動だけに大きく報道され、全国に広まることになったという。

 鎌田医師は言う。「人間はなるようにしかならない。頑張りすぎは疲れるし、できれば楽しく生きるのが本当の姿。医療はそのサポートをするのが仕事なんです」

 楽しく長生き、という長野の哲学である。

【写真説明1】「痛いところはないですか」。ゆっくりと診察しながら問い掛ける安藤親男医師に、両角玖郎さんは「はーい」と答えた=1月22日、長野県茅野市

=2010/02/15付 西日本新聞朝刊=

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