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携帯小説サイトで火 生きる価値、病床から訴えた 肺移植待ちながら亡くなった池田真一さん

[キーワード]医療情報

[更新日時]2008年09月29日

 ■「僕はもう独りじゃない」

 肺移植を待ちながら今年5月に亡くなった池田真一さん(31)が闘病生活や普通に生活できる幸せ、恋などの日常をつづったエッセーが生前、携帯小説サイトで火がつき、今も広がり続けている。池田さんの生き方に心を動かされた人たちがその遺志を継ぎ、コンサートなどを通して、生きることや移植について伝え始めた。

 高松市に生まれ育った格闘技好きの少年が体に異変を感じたのは中学3年の時だった。食事が取れず、微熱、吐き気が続く。高校1年で白血病と診断され、抗がん剤治療を受けた。東京の大学に進んだが1年の終わりに再発。骨髄移植しかないと告げられた。

 提供者が見つかり骨髄移植を受けたのは21歳。理学療法士を目指して通った専門学校で妻の由佳さん(31)と恋に落ちた。理学療法士として働き2005年3月、28歳で結婚した。

 だが、幸せな日は長くは続かなかった。新婚旅行直後、今度は肺機能低下で呼吸困難になる肺線維症と診断された。

 病状は進み、池田さんと社会をつなぐ窓は携帯電話になった。昨年6月、池田さんは携帯小説サイトと出合う。病床から投稿を続けた。闘病生活、妻との出会い、生き抜く気持ち…。2カ月で書き上げたエッセーのタイトルは「僕の履歴書」。

 苦しい治療の中で、誰でもいい、そばにいてほしいと願ったこと。普通に歩き、食事ができることがどんなに幸せかということ。心が折れそうな時、いつも家族や友達が支えてくれたこと。

 一喜一憂、喜怒哀楽を包み隠さず、生きる意味を問い続けた。たくさんの感想と応援のメールが届いた。「当たり前に生活している自分を考えさせられました」。口コミでも広がり、あっという間に携帯小説サイトのランキング上位になった。

 脳死肺移植は、他人の死があって成り立つ医療だ。肺移植しか手段がないと知らされた時「そこまでして生きたいのか。生き続ける価値があるのか」と苦しんだ思いもつづり、移植について関心をもってほしいとの願いをしたためた。

 由佳さんは言う。「普通に生活できることがどれほどありがたいか、当たり前に生きるのがどんなに幸せかを伝えたかったのだと思います」。小中学校の同級生が開いたホームページ「頑張れ真ちゃん!」にも全国からメールが届いた。闘病生活をする人や家族からのものもあり、池田さんは1つ1つに返事を書いた。

 3回目の結婚記念日となった今年3月、エッセーに加筆した「生きたい!! 僕の履歴書」(リーブル出版)が出版された。本はこう締めくくられた。「この先はどうなるか分からないけれど、希望を捨てずにとにかく生きていこう。僕はもう独りじゃないのだから」。池田さんは、脳死肺移植を待つ患者登録をしていた。

   ×   ×

 大阪市で今月21日にあった日本移植学会のイベントに、あるバンドが登場した。池田さんのために結成された「one truth only」。伸びやかなボーカルが会場に広がった。

 頑張れって容易(たやす)くは言えない 負けるなって簡単には言えない だけどきっと言葉に嘘(うそ)はない 届けたい ただそれだけで

 池田さんの小中学校の同級生で作曲家の山田智和さん(31)が作った池田さんの応援歌「たったひとつの真実」が優しく切なく流れた。子連れの家族、若い男女、移植を受けた人やドナー(提供者)の家族が聞き入った。

 山田さんは昨年秋、同級生の勧めで携帯小説サイトを読み、池田さんの生き方に衝撃を受けた。年末に自宅で療養中の池田さんを訪ね、東京に戻るとすぐ、池田さんのために作曲を始め、ミュージシャン仲間に声を掛けてバンドを結成した。

 池田さんに5月22日、山田さんからCDが届いた。「いい曲やわぁ、勇気もらうわ」。そう言ってはじけた池田さんの笑顔を、由佳さんは鮮やかに思い出す。だが翌日、池田さんは意識不明になり、30日未明、帰らぬ人となった。

 「もっと多くの人に真ちゃんの生き方や遺志を伝えたい」。山田さんはライブコンサートを企画した。先月、東京・新宿での第一弾には、お笑い芸人や他のミュージシャンも参加。収益の一部は日本臓器移植ネットワークへの寄付、全国の中学、高校に池田さんの本を寄贈する資金になる。

 ライブでは池田さんの生前の映像も流し、移植で助かる命があることを伝えるが「移植に肯定でも否定でもいい。まず知って、関心を持ってほしい」と山田さん。バンドのメンバーは、それぞれが臓器提供意思表示カードを持つようになった。

 「人と人のつながりを感じた」「勇気をもらった」-ライブには、そんな声が寄せられた。

 自分が脳死と判定されたら臓器提供してもよい-。若い世代を中心にこうした意識も広がっている。内閣府の世論調査では「臓器を提供したい・してもよい」との回答が10年前の調査開始時から年々増加、06年には4割を超えた。だが、提供時に必要な意思表示カードを持つ人は8%にすぎない。移植への理解は進むが制度は浸透しない。

 池田さんのブログには、今も人々が訪れ、書き込んでゆく。それに由佳さんが返信する。「主人の思いがつながって、生きていくことの大切さや移植の現状を知ってもらえたら。そこで1つでも助かる命があれば」。由佳さんはこう話している。

【写真説明1】故・池田真一さんと妻由佳さん。真一さんは呼吸が苦しい時も携帯小説サイトに書き続けた
【写真説明2】池田真一さんの闘病記「生きたい‼ 僕の履歴書」
【写真説明3】日本移植学会総会のイベントで演奏する「one truth only」。手前が池田真一さんの同級生の山田智和さん=21日、大阪市

=2008/09/29付 西日本新聞朝刊=

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