
●2週間後に判明
「つばをゴックンと飲む込むと、のど仏の辺りが上がるでしょう」
熊本医師は、まず食べ物や飲み物をのみ込む仕組みを教えてくれた。人の体は何かをのみ込む際、特有の運動が起き、のどが少し上がる(喉頭挙上(こうとうきよじよう))。喉頭が突き上がることで喉頭蓋(こうとうがい)が気管入り口の喉頭口に倒れ込み、口が閉じて異物が混入しないように仕分けしているのだ。この仕組みによって、のみ込んだ物は食道へ送られるが、何かの拍子にタイミングがずれると気管に入ってしまう。それが誤嚥(ごえん)だ。

たばこなどが食道や胃に入るのはもちろん危険だが、「誤嚥の恐ろしい点は呼吸に影響を与えること」と熊本医師は力を込める。異物が、声帯付近や気管にスッポリはまって呼吸困難を引き起こすことがあるのだ。背中をたたいて吐き出させたり、必要に応じて心肺蘇生(そせい)をしたり、119番通報する必要がある。
異物が気管を通り越して気管支に入り込むことも多い。気管にある間は激しくせき込むが、気管支まで達すると逆に症状が消えてしまう。「良くなった」と勘違いして放置すると、知らぬ間に肺の換気が損なわれ細菌感染などの危険性も増す。
2週間以上たって、気管支に異物が詰まっていることが判明したケースもあるという。
●1年に2-5例
異物の除去は簡単にいかない。エックス線やCTなどで位置を確認し、子どもに全身麻酔を掛けなければならない。乳幼児は、気管や気管支が細いため、使うのは気管支鏡と呼ばれる外径4-5ミリ、長さ20-25センチのステンレス製の筒だ。口から挿入して、小型鉗子(かんし)で異物を引き抜く。
「ただし、1回の操作時間は2、3分が限度」と熊本医師。気管支の直径は小さく、筒を入れると肺の換気が阻害され、酸素の供給などができなくなるためだ。
誤嚥して何日もたっていると、さらにリスクが高まる。異物が水分を吸って膨らみ、砕けやすくなるのだ。周囲の粘膜が炎症を起こし、出血しやすくなっていることもある。時間と闘いながら微妙な操作を繰り返す。麻酔医がいるような専門機関で対処することが多く、こども病院では年間2-5例あるという。
●泣き声が引き金
「多発しているわけではないけれど、減ってもいない。親御さんに、こんなに大変とは思わなかったと言われることもあり、少しでも実態を知ってもらえたら」と熊本医師は話す。
過去5年間で処置した14件のうち、一歳の幼児が半数を占め、異物で最も多かったのが豆類だった。ピーナツ(チョコレートなどが混ざったものも含む)、大豆などで、全国的にも似たような傾向にあるという。食品以外では、おもちゃ(プラスチック玩具の破片、ビーズなど)や文房具などの報告例もあった。
原因としては、食事中や、何かを口にくわえているときに「転ぶ」「ほかの子とぶつかる」「泣く」といった動作が引き金となり、息を吸い込むことで気道に入るとみられている。
予防について、熊本医師は「例えば豆類ですが、のみ込む恐れのある3歳以下、できれば5歳未満の子には与えないよう配慮を」と話し、周囲の気遣いの大切さを説く。
子どもが異物を口にするところを直接見ていなくても、急にむせて激しくせき込んだりしたら要注意だ。その後もゼイゼイした呼吸音やせきなど変調が続くときは、早めに医師に相談するよう呼び掛けている。
(図=のどと気管などの仕組み)




