じゅうたんが敷かれた待合室。窓の外に目を向けると、行き交う新幹線とそびえ立つビル群が視界に入る。静かに流れる音楽がくつろいだ雰囲気を演出していた。
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JR東京駅から徒歩一分のビル3階。「イーク丸の内」は、乳がんなど女性の疾患が専門の診療所だ。乳房エックス線撮影装置(マンモグラフィー)などを備え、大病院での経験を持つ医師約10人とスタッフは女性ばかり。関係者は「患者の満足度を調査したら、98%が再来を望むという結果が出た」と胸を張る。
「検査を受ける患者の緊張を和らげるため診察室でアロマをたくなど、細やかな心遣いを意識している」と谷口ひとみ副院長は言う。
だが、別の医療法人が経営していた数年前までは患者が集まらず、閉鎖の危機に直面していたという。毎月の赤字は約2000万円。苦境に陥った当時の院長が再建に向け助言を求めたのが、医療機関の経営・開業支援を手掛ける企業「メディヴァ」(東京)だった。
社長の大石佳能子さん(48)が振り返る。「一言で言えば、経営感覚が完全に欠落していた」。無断で休暇を取る医師。健康診断の申し込みを独断で断る事務員…。「スタッフの統制も取れず、患者への応対も満足にできない。ただ、婦人科系の疾患に特化した理念は魅力的で、再生の余地はあると思った」
スタッフを総入れ替えさせ、つてを頼りに谷口副院長ら医師を集めた。途中、院長が経営を投げ出したため、知人の医師らでつくる医療法人に併合。昨年、再スタートすると業績は急激に回復した。
大石さんは言う。「大切なのは患者の視点に立ったサービスの提供。その結果、信頼が生まれれば医療側の人間も幸せなはず。その手伝いが私たちの仕事です」
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米国の経営コンサルティング大手で小売業のマーケティングを担当していた大石さんが医療界に関心を持ったきっかけは、初めての出産に臨んだ36歳の時だった。
かかっていた医療機関で何の説明もないまま診察まで3時間も待たされた。次回の診察日を指定された際、仕事の予定があるので別の日にとお願いしたが、女性医師は「担当を変わるわよ」とカルテを投げ付けてきた。
「顧客などという発想をまったく持たない世界。『何だこれは』という感じだった」
違和感をぬぐい去れず、職場に復帰後、医療界の実態を知るため50人近い医療関係者に話を聞いた。閉鎖性の強さを感じる一方、「患者目線」の必要を訴える医師にも出会った。
「いっそ医療現場に飛び込んで、理想を実現する診療所をつくってみようか」。コンサルティング会社を退職し、2006年6月にメディヴァを設立。従業員は現在約50人で、07年12月期の売上高は約7億円だ。
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事業の柱は開業を希望する医師のサポートで、経営コンセプトの決定や土地選定に向けた調査、資金調達の計画策定などを請け負う。開業を手掛けた診療所は約70で、その後のサポートもする。昨年11月に開いたセミナーには約150人の医師が参加した。
「病院勤務のきつさを訴える医師は多く、開業希望者が減ることは当分ない。ただ、開業医の仕事は決して華やかなものではない。何をやりたいかという明確なイメージが必要です」
相手の話に真摯(しんし)に耳を傾けられるか。トラブルが起きた際、的確な判断を下せるか。医師と開業に関する契約を結ぶかの見極めは慎重だ。向かないと思えば「もう少し今の病院で頑張られた方がいいのでは」と諭すことも。開業後も経営状況を確認したり、患者やスタッフ間でトラブルがないか目を配ったり“当事者”としての日々が続く。
「患者の視点から医療を変えていきたい。そのためには、コンサルタントというよりも、オペレーターとして自らも責任を持って内側から医療にかかわることが大事だと思うんです」
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●医療倫理、問われる意識
▼東京医科歯科大大学院 川淵孝一教授に聞く
“医療支援”を掲げるビジネスが台頭する背景にはどんな事情があるのか。意義や問題点について、東京医科歯科大大学院の川淵孝一教授(医療経済学)に聞いた。
-医療経営のコンサルタントが脚光を浴びる理由は何か。
「資金面の問題から病院や診療所の経営が厳しくなっていることが1番の要因だ。赤字の解消が難しい状況に、医師不足が追い打ちをかけ『医療崩壊』が深刻化。実際に破綻(はたん)に追い込まれる病院も出始めた。経営面に疎い医療関係者は多く“お助けマン”として専門家の力を求める人が多い」
-コンサルタントを使うメリットは。
「開業を志す医師や、病院や診療所の院長にとっては、資金調達や税務対策などの面で不安も多い。親身になって相談に乗ってくれる存在が安心につながるのだろう」
-問題点は。
「経営面を重視しすぎて、結局、お金の話に終始してしまいがちなことだ。経営の質を上げることは大事だが、医療の質を保つことはもっと重要。医療の質を上げながら、いかに経営の効率化を図るか。医療人の言葉や気持ちが分かるようなコンサルタントでないとトラブルも起こる」
-悪質な事例もあると聞くが。
「現状では、名刺に肩書を刷り込むことで簡単にコンサルタントになれる。病院や診療所の乗っ取りを画策するケースもあるようだ。また、開業の際に知り合いの医療機器リース業者を連れてくるなどして、診療所を食い物にするような事例もあるという。問われているのは、医療に関する倫理観をきちんと持ち合わせた人材かという点だ」
-コンサルタントの質を担保するような資格制度が必要か。
「例えば、米国ではヘルスケアに特化した経営学修士(MBA)を取得するための大学もあり、経営知識の習得だけでなく、医療現場でのマネジメント研修や倫理教育を義務付けたりしている。国が資格制度をつくるのか、民間に任せるのかは議論があるだろうが、野放しにしないためのシステムづくりは欠かせない」
=2009/05/10付 西日本新聞朝刊=




