●可塑性を生かす

川平教授によると、片まひ患者のリハビリは、まひがない方の半身を鍛えて、歩行や日常生活を送れるようにするのが目標とされてきた。
しかし、脳科学の進歩で、脳の一部が破壊されても、損傷を免れた他の部位が損傷した部位の役割を代行する能力(可塑(かそ)性)があることが明らかになってきた。
まひした部位のリハビリ法には、まひのない手足を使えないようにしてまひの回復訓練をする「拘束療法」もあるが患者の負担が大きく、非効率的。川平教授は刺激が伝わりさえすれば損傷した部位の代役を果たす脳の神経回路がどんどん強化されることに着目した。
治療者が、患者のまひした手足を操作してやって必要な神経回路にピンポイントで刺激を伝え、目標とする動作を誘発。それを根気よく繰り返すことで必要な神経回路を再建・強化して、まひの回復を促進する新リハビリ法「促通(そくつう)反復療法」を完成させた。教授の名を冠して「川平法」とも呼ばれている。促通とは、患者が意図した動作をしやすいように、動かしたい部位に刺激を与えて運動を助ける手技だ。
●1日100回の訓練

「はい、次はここを伸ばしましょう」。霧島温泉郷の中心部にあるセンターの訓練室。男性患者のまひした右手に手を添えて、川平教授が声をかける。患者の人さし指を素早く内側に折り曲げた後、指を伸ばす。
「こうすると、刺激が脳に伝わり、患者さんは自分の力だけで動かすよりもはるかに楽に人さし指を伸ばすことができるんです」と川平教授。これを繰り返すと、脳の人さし指を動かす部分だけが興奮して神経回路が強化されるという。
刺激を与えるため、男性患者に施した「手関節の伸展と屈曲」のほか、筋肉が引き延ばされると収縮する「伸張反射」、皮膚に刺激を与えると周囲の筋肉が収縮する作用などを利用する。
リハビリ動作は指やひじ、肩など上肢8パターン、下肢3パターンがあり、まひの程度に応じて選択。それぞれを1日100回繰り返す。靭帯(じんたい)などをつくるタンパク質が柔軟化して関節や筋肉の弾力性が高まる温泉の効果を利用し、まひした部位をセンター内の温泉で温めてからリハビリをするのもポイント。川平教授は「神経回路が切れていなければ、まひをかなり回復させられる」と話す。
●わずか2週間で
昨年11月末にセンターに入院した男性患者(58)は2度の脳卒中で四肢まひになり、声を出したり物を飲んだりすることもできなかった。
しかし、体をゆっくりねじってから元に戻すことで腹部の筋肉を鍛える促通反復療法などのリハビリを開始。2カ月で左手足が動くようになった。歩行は困難だが会話や食事ができるまでに回復し、「ここまでよくなるとは思わなかった」と男性。川平教授は「1度目の脳卒中なら、装具を使えば歩けるようになる患者が大半」と強調する。
同じく脳卒中による片まひで、左手の指が3年間、握りこぶしの状態で固まったままだった男性(55)は、センターでリハビリを始めて2週間で、親指と人さし指で物をつまめるようになった。
長時間、手を温泉につけて指の硬直を軟らかくし、治療者が指をゆっくり広げてやってから促通反復で指を動かす。男性は「前に入院していた病院では、指のリハビリなんてしたことがなかった」という。療法の効果が顕著なのは、軽~中程度のまひ患者だが、適切なリハビリが受けられなかったために重度のまひと思い込んでいる患者の場合、大幅に機能が回復する例もあるという。
●人手確保が課題
促通反復療法の課題は、時間と人手が必要なこと。療法を習得した専門医や療法士はまだ少ないため、センターでは理学療法士らを対象に同療法の実習生を県内外から受け入れている。
また、1日2時間近くかけて運動を繰り返すことが大切だが、同病院の場合、促通反復などの運動療法を含めたリハビリ治療に保険適用が認められているのは、1日最大80分~2時間分。
このため、自主訓練でもリハビリができるよう患者の家族にも手技を指導。同大工学部や教育学部と共同で、携帯電話に使われている超小型振動装置を腕や足に取り付け、必要な刺激を与えられる訓練機器も開発を進めている。
川平教授は「片まひの回復促進には、脳の可塑性が高い脳卒中後1~2カ月以内にまひした手足をできるだけ多く動かす必要がある。各地で講習会を開いて療法を普及させたい」と話している。





