
「1分が わける運命 脳卒中」。今年の脳卒中週間(5月25-31日)の標語だ。
脳卒中の70%近くを占めるのが脳梗塞。脳血管が詰まって血流が止まり神経細胞が壊死(えし)する病気で、60歳以上に多い。
危険因子は高血圧や糖尿病、高脂血症、喫煙、動脈硬化、不整脈、多量飲酒など。それらのリスクがある人にとって脳梗塞の誘因とされるのがストレスや過労、そして脱水だ。「脳出血が冬の寒い日に起きやすいのに対し、脳梗塞になりやすいのは体内の水分が不足しがちな夏場。脳卒中週間がこの時期なのも、そのためです」と岡田医師。
脳の血管が破れる脳出血は脳卒中の約20%で、くも膜下出血が約10%。脳出血は高血圧や多量飲酒、くも膜下出血は喫煙と高血圧、遺伝的要因などが危険因子という。
脳卒中の疑いがあれば、救急車ですぐに専門病院に運ぶことが重要。岡田医師は「治療開始が1分でも早いほど効果が期待できる」と強調する。
●気になる兆候

脳卒中の初期症状の8割近くを占めるのが1.半身の手足の力が抜けるなどの片まひ2.言葉がしゃべりにくい、ろれつが回らないなどの言語障害3.何となく歩きづらくなる、突然歩けなくなるといった歩行障害-の3つ。
半身のしびれや感覚の鈍り、めまい、片目や視野の半分が見えにくくなるのも脳卒中の初期症状。さらに脳出血とくも膜下出血では嘔吐(おうと)、特にくも膜下の場合は頭をハンマーで殴られるような激しい頭痛も特徴的という。
これらの症状が出た時点で脳卒中は始まっている。「60歳以上の人で脳卒中の危険因子があり、ある日突然に兆候が表れたら、遠慮せずに救急車を呼んで専門病院に搬送してもらうこと。軽いまひだからと自分で車を運転するのは非常に危険です」と岡田医師。
一瞬カーテンが下りるように片目が見えにくくり、また見えるようになった。朝食時にポロッとはしを落として「おかしいな」と思っていたら2-3分でよくなった。そんな状態は脳梗塞の前触れの一過性脳虚血発作の典型例。その時点ですぐに治療すれば、発症を防ぐことも可能という。
●劇的な回復も
最近まで、発症直後の脳卒中には有効な治療法がなく、安静にするしかないという考えが一般的だったという。
しかし、脳梗塞には、血管の詰まりを薬で溶かして再開通させようとする「血栓溶解療法」が登場。発症後3時間以内に静脈から血栓溶解剤「遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ」(t-PA)を投与する療法が昨年10月、国に承認された。
後遺症がないか、ほとんどない状態まで回復する劇的な効果が37%の確率で期待できるが、「t-PAはもろ刃の剣」と岡田医師。脳梗塞になった後に脳出血を起こすケースが患者千人に6人の割合(0.6%)で存在するが、t-PA投与の影響でその発生頻度が10倍(6%)に上がることが分かっており、病状がかえって悪化する恐れもあるからだ。副作用を避けるため、投与には出血傾向や血小板数、血圧など厳しい条件がある。発症から3時間を1分でも過ぎれば投薬できない。
脳出血の場合は、発症後4時間以内に「活性型第七因子製剤」を投与し、血管の破れた部位を凝固させ出血を抑制する新療法の治験が進んでいる。くも膜下出血に対しては、カテーテルで血管内に特殊なコイルを入れ、動脈瘤(りゅう)の破れをふさぐ治療法が開発されている。
●基幹病院増を
血栓溶解療法などの脳卒中の超急性期治療は、患者を発症後ごく早期に専門医療機関へ搬送し、迅速に診断や検査をして治療適応例かどうか判断することがカギだ。
例えばt-PAの場合、患者が到着して最初の10分間に救急部で診察。次の15分以内にコンピューター断層撮影(CT)を完了させ、45分以内に投薬の適応を判定して、60分以内に投薬を始めるのが望ましい。岡田医師は「投薬のリスクについても、家族に十分説明をしなければなりません。最低でも3人の医療従事者が分業することが不可欠」と話す。
このため、脳卒中集中治療室(SCU)や脳卒中専門病棟(SU)を備え、内科と外科のチーム医療で脳卒中患者を24時間受け入れる「脳卒中基幹病院」(脳卒中センター)が各地に増えつつある。九州医療センターも2001年に脳血管センターを開設した。ただ、全国的にその数はまだ十分とはいえない。岡田医師は「脳卒中基幹病院を、発症から1時間以内で救急車で搬送できる密度で整備するべきだ」と訴えている。
【写真 】岡田靖医師





