仕事は平日朝から夕方までだが、どんなに疲れていても夜ゆっくり過ごすことはできない。毎晩10時になると、妻子と暮らす自宅からマイカーを20分ほど走らせて、母親が1人で暮らす実家に出向く。寝たきりの母親のおむつを交換するためだ。自宅に戻るのは午後11時半ごろになる。
仕事は土日は休みだが、週末もくつろぐことはできない。夜のおむつ交換に加え、日曜は昼すぎから母の元へ。歯がない母親のために、おかゆなどを作って食べさせることもしている。
それだけでない。Aさんの仕事中や就寝中、母親から「気分が悪い」などと電話でSOSが入ることもしばしばだ。「心配だが、行けないことが多い」とAさんの表情は曇る。
もちろん、介護保険は利用している。母親は要介護5。1カ月に利用できるサービス上限額は約36万円。訪問介護が1日3時間半、訪問看護が週1回、入浴介助が週1回…と利用すると上限にすぐに達する。Aさんの毎晩と日曜の介護を加えても足りず、訪問介護を全額自己負担で追加利用せざるを得ないことがある。
母親には年金収入があるが、高額となる介護サービス費を含めた生活費を一部しか賄うことができず、Aさんが月10万円以上出しているという。「慢性的な睡眠不足で体はだるいし、金銭的な負担も大きい」。こうした日々が半年以上続く。
母親は時折「早う死なないかん」と漏らすという。「それをね、否定できないときがある」とAさん。
在宅介護の厳しさは、日本全体のかねてからの課題だ。国は在宅介護の状況改善に知恵を絞り、今春の介護報酬改定でも「24時間地域巡回型サービス」の創設を打ち出したが、Aさんに言わせれば「小手先ばかりで本気さが見えない」。というのは、介護保険で利用できるサービスの上限額(単位)を引き上げたことが介護保険が2000年に始まって以来、ないからだという。「財政事情が厳しいのだろうが、現状では何とも中途半端」と、Aさんは訴える。
(西山忠宏)
=2012/02/20付 西日本新聞朝刊=





