治療法の進歩でエイズ発症はほぼ抑えることができるようになったのに、なお差別があるのか-。詳しいことを教えてもらえればと新年早々、電話で取材を申し込んだのが山本政弘医師(55)。エイズ治療の九州ブロック拠点病院である国立病院機構九州医療センター(福岡市)でAIDS/HIV総合治療センター部長を務める人だ。「明日午前中でしたら時間が空いてます」とすぐに応じてくれた。
取材当日、山本医師は「HIV感染者を診療したがらない医療機関は多い。特に消極的なのが、人工透析の施設と歯科診療所」と指摘。「理由は風評被害が怖いから。HIV感染者が通院していることで他の患者たちが離れてしまうのを懸念している」と語った。また、知的障害のある感染者が5年ほど前、在宅生活が困難になったため、福祉施設に入所しようとした際、いくつもの施設に断られ、結局は不安定な在宅生活を続けざるを得なかったとの話もされた。「施設側が前向きでも、他の入所者の家族が反対した例もあった」という。
そうした事例の説明を終えたところで、山本医師は、私の目を見据え、こう言われたのである。「この差別を生みだしたのはマスコミですよ」
「マスコミはエイズ患者・HIV感染者が国内外で確認され始めた1980年代、エイズ問題をセンセーショナルに取り上げた。そのために市民の多くが、恐ろしい特別な病気との意識を持った。今、医療・福祉施設が適切に対応すれば感染の恐れはないことを承知していても、市民に差別意識があって風評被害を受ける心配がある限り、拒否はなくならない」-。山本医師はそんな説明を続けた。
そして、最後にこう付け加えた。「差別解消の力を持つのも、またマスコミ。市民の意識が変わるまでHIV感染の安全性について、しっかりと報道してください。そのために私もできる限り取材に応じるようにしている」
地域の人々に役立つ報道とは何か。山本医師に取材したことで、あらためて考えている。 (西山忠宏)
=2012/01/16付 西日本新聞朝刊=





