─公開中の映画「ウルルの森の物語」は絶滅したはずのエゾオオカミを子どもたちが発見し、自分たちの手で森にかえすというストーリーです。
船越 見終わったときは、自分が出ていてこんなに泣くのは役者としてどうなんだ、というくらい涙が止まりませんでした。誰かに話し掛けられただけでも涙がどっと出てしまうくらい。そのとき思ったんですが、この映画は見る映画ではなく感じる映画なんだ、ということです。
─船越さん演じる生野大慈は、夢をかなえるために持病がある妻と離婚しているという設定です。
船越 この映画には大人にも子どもにもしっかりとしたメッセージが入っています。大人にはいくつになっても人間は成長できて、家族のきずなは何よりも強いということ。子どもには命の大切さと信じ続ける心が奇跡を“起こす”ということです。
─北海道の大自然と家族の再生、そして動物が大きなテーマ。動物を相手に撮影する苦労はありましたか?
船越 もちろんです。ウルルは撮影が始まったときは生後1カ月くらいで、本当に子どもでした。訓練されていないので「お座り」一つしない。ウルルに現場で楽しく遊んでもらい、それをお芝居のように見せるという作業で、時間も手間もかかりました。
─今作は、2007年に公開されて大ヒットした船越さん主演の「マリと子犬の物語」を受け、「マリ─」の主要キャストとスタッフが再びそろった作品です。
船越 前作は実話で映画としての完成度も高かったので、正直に言うと「マリ─」を超える映画はちょっと難しいのでは、とも思いました。でも、脚本を読むと目が腫れるくらいに涙が出た。作品に描かれている奇跡にも打たれて、僕も奇跡を“起こせる”と信じてみようと思いました。
─子役の桑代貴明さん、北村沙羅さんもいい演技をしています。
船越 2人とも感性が服を着て歩いているような子どもたち。クライマックスのシーンでは僕の方が2人の本気モードの芝居に引っ張られたほど。僕も人の親ですから、子どもがふとした時に親を軽々と超えていくという一瞬に立ち会います。悔しさもあるんですがうれしくてしょうがない、そんな思いを抱きました。
─11月にあった完成披露試写会では、妻の松居一代さんが舞台の船越さんに声援を送っていました。
船越 僕らも順風で来たわけではありません。乗り越えなければならないものを乗り越えてここまで来ているんだと思います。うちの子は僕にとっては血のつながりがないのですが、この映画にもあるように、裸と裸で向き合えば血を超えて、血よりも濃いきずなが築けるんじゃないでしょうか。
船越英一郎(ふなこし・えいいちろう)さんは1960年生まれ、神奈川県出身。82年、ドラマ「父の恋人」でデビュー。「火災調査官・紅蓮次郎」シリーズなど2時間ドラマの主演作品が多く、「2時間ドラマの帝王」の異名を持つ。妻は女優の松居一代さん。
=2009/12/20付 西日本新聞朝刊=