─「崖(がけ)の上のポニョ」(以下「ポニョ」)のパステルで描かれたような背景はこれまでの宮崎アニメにはないものですね。
宮崎 これは、美術を担当した吉田昇の持ち味。精密に描き込むのもいいけど、これはこれで、見ている方が緊張しなくてすむ。いい意味で、幼児性を全開できたと思います。
─構想の際、最初に浮かんだイメージは?
宮崎 あやしい船がサーチライトをつけながら海を進んでいる。それを崖の上から少年が見ている。その光景が発端なんですが、結局映画には入れられなかったんです。まぁ、そういうことが多いですけど。
─金魚というキャラクターはどこから?
宮崎 実は、最初はカエルでいこうかと思ったんです。でも、カエルのキャラクターは使われすぎてて、いくらデザインを変えてもピンと来ない。それで思い付いたのが金魚。ブリキのおもちゃなんかあったでしょ。
─津波に乗ってポニョが走ってくるシーンは迫力満点。怖いぐらい。
宮崎 女の子が夢中になってやってくるときは怖いですよ(笑)。あの場面は、何かが爆発してる、弾けているんです。海の色も穏やかな青ではなく、力を出したくて黒くした。その上を真っ赤なポニョがうれしそうに走ってくることで、すべてが浄化される。そんなことを考えました。
─津波で街が水没する災害が起きたのに、人々に「悲惨さ」や「暗さ」がない。
宮崎 「悲惨な被災者」という枠ではくくれない強さやしたたかさがあるでしょ、人間には。だから、映画でも、持ってる旗をみんな船に立てて櫓(ろ)をこいで力を出すシーンを入れたかった。
─その場面で、若い夫婦と赤ちゃんにポニョが出会い、関係を結びます。印象的でした。
宮崎 映画の後、元は魚のポニョが、成長して人とコミュニケーションしていけるのか? 不安になるでしょ? 親子と出会うあの場面には、ポニョがやがて他人のことを理解して、この世界に受け入れられるであろうという「保証」を入れたつもりです。まぁ、監督がこんな種明かしをしちゃいけないんだけど(笑)
─それにしても、登場人物が魅力的!
宮崎 宗介、おばあちゃん、リサ…、みんな「こういう風にあれたらいいね」という感じですね。でも、フジモトと耕一だけはそうはいきません。働くお父さんだから(笑)。周りにもいっぱいいますからね。地球の環境問題を論じながら、実際は一人の娘に手を焼いているみたいな。
─さて次作は?
宮崎 明治の文豪が出てくる探偵モノなんてできないだろうか、と考えたりするけど、誰も乗ってくれない。面白そうでしょ? そんな案が自分の中でごろごろ転がっているけど、まだ何も決まってません。
(文・岩田直仁、写真・大矢海寿帆)
宮崎駿(みやざき・はやお)さんは1941年、東京都生まれ。テレビアニメを経て、79年に劇場用アニメ「ルパン三世 カリオストロの城」を制作。以後、「風の谷のナウシカ」「となりのトトロ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」などを発表し、世界的に高い評価を受ける。10作目となる長編アニメ「崖の上のポニョ」が全国で公開中。
=2008/08/10付 西日本新聞朝刊=