
(C)2009 Imaginarium Films, Inc.All Rights Reserved.(C)2009 Parnassus Productions Inc. All Rights Reserved.
どうしたことだ? その日、試写室のあまりもの人出に俺はすっかりたじろいでしまった。月曜日の昼下がり、しかもこんなタイトルの映画をこんなにたくさんの人が見にきているなんて! これはなにかある。そう思ってあわててパンフレットを見たのだが、それで納得した。ヒース・レジャーが撮影中に亡くなって、その代役をジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人がやるというのだ。でも、ちょっと待てよ。ひとりの代役を3人がやるのか?
時代錯誤な大道芸人の一座がロンドンにやってくる。そう、あのチンドン屋的な空気をたっぷり身にまとって。一座は駐車場や橋の下、夜の遊園地に舞台をしつらえ、酔っ払いたちの罵声(ばせい)が飛び交うなか、うさんくさい出し物を披露する。それは、客が自分の欲望の世界に遊べるという「想像館」。舞台の上の鏡のなかに飛びこめば、あら不思議、そこには自分が心に想い描いていた世界が広がっている。種も仕掛けもない。だって、この一座の座長、悪魔と取引をして永遠の命を手に入れているのだから、客に自分の心のなかをのぞかせるくらい朝めし前なのだ。もうおわかりだろう。ヒース・レジャー扮(ふん)するトニーはわけあってこの一座に身を寄せているのだが、代役の3人は想像館のなかで客たちがトニーを美化したイメージなのだ。
さて、座長だ。このジジィ、自分の娘が16歳になったら悪魔に引き渡すという約束で若返らせてもらい、娘の母親との恋を成就させている。で、娘の誕生日まであと3日。そこへ悪魔が新しい取引を持ち出すのだが-。
正直、わかりやすい作品ではない。試写室で俺のとなりにすわっていた女は20分で爆睡(ばくすい)していたけど、代役のお三方が目当てなら、それもうなずける。見どころはそこじゃない。悪魔役がトム・ウェイツなのだ。彼の歌の世界そのままの悪夢を目のあたりにできちゃうぞ。幻想の世界で繰り広げられる、ジャジーでシュールな冒険譚なのだ。 (作家、福岡県在住)
▼「Dr.パルナサスの鏡」公式サイト
http://www.parnassus.jp/index.html
■
作品紹介はコチラ>>
=2010/02/07付 西日本新聞朝刊=