
(C)2008 森 博嗣/『スカイ・クロラ』 製作委員会
自分のほんとの気持ちを知るにはどうしたらいいか? 答えは簡単。極端な仮定をしてみることだ。宝くじがあたったら、いちばんにやりたいことは? 無人島に3つだけなにか持っていけるとしたら? これまでの人生でひとつだけ取り消しできるとしたら? そんなバカバカしい仮定を真剣に空想してみるといい。コツは正直でいること。そうすれば自分になにが必要で、なにがそうじゃないかが見えてくる。
もしも不老不死になったら?
そんなありきたりな仮定を特異な世界観で突きつけてくる、なんとも美しい作品だった。恒久的な平和を実現した世界では、その平和を支えるために戦争が求められていた。ショーとしての戦争を命がけで闘うのは、戦争請負会社に雇われた「キルドレ」と呼ばれる不老不死の少年少女パイロットたち。キルドレであることを受け入れる者、おびえる者……彼らが血を流す天空があまりにも青く、まぶしく、そのせいで地上にいるときの倦怠(けんたい)感がいっそう悲しい。
押井守監督の作品は難解だ。「イノセンス」は言うにおよばず、「うる星やつら」だって彼の担当した回だけ何度も肩すかしを食わされた。だけどその美しさときたら圧倒的で、ほとんど原風景級なのだ。今回だって例外じゃない。映画がはじまって3秒で美しい空中戦に打ちのめされ、物語の筋はあとからパンフレットで確認してしまったほどだった。
はじまりが空中戦だったように、物語は空中戦で幕を閉じる。主人公の函南優一(かんなみゆういち)は敵会社のエース・パイロット“ティーチャー”に単身ドッグファイトを挑む。ティーチャーはキルドレではなく、ゆえに優一たちが絶対にかなわない比喩(ひゆ)的存在として描かれている。そこに押井監督の基本視点がある。過ぎた時間はもう戻らないからこそ、人間はどうにかマシになれる。それでも優一は大空に飛び立つ。永遠という絶望的な時間のなかに希望を探し求めて。
(作家、福岡県在住)
=2008/08/10付 西日本新聞朝刊=
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